新たな隣国
執務室。
書類に目を通していると、ラインが入室してきた。
「総統。ルマニア国の外交官より、お時間をいただきたいとの申し出が届いております」
私は手を止める。
「ルマニア国……」
チュコ地区を共和国へ編入したことで、新たに国境を接することになった国だ。
「何か情報書類は……」
机の上の書類をめくる。
「あったわね」
私は資料を開き、目を通した。
「どんな国かしら」
人口、産業、軍事、資源。
必要な項目が簡潔にまとめられている。
「軍事力は世界でも四位程度……」
私は思わず小さく息を漏らした。
「規模はかなり大きいのね」
しかし、続きを読んで少し表情が変わる。
「装備は著しく旧式。近年は更新も遅れている……」
数はある。だが質が追いついていない。
そんな印象だった。さらに視線を下へ移す。
「農業は自給率百パーセント以上。食料には困らない国、と」
そして、その次の一文に目が止まる。
「石油を産出……」
私はゆっくり資料を閉じた。
「これは大きいわね」
共和国にとって石油は、今後ますます重要になる戦略資源だ。
安定して確保できる相手なら、それだけでも外交する価値がある。
もう一度資料を見る。
「ただ……重工業が著しく劣る、か」
製鉄。工作機械。兵器生産。
そうした基盤産業は、まだ十分に育っていないらしい。
私は腕を組み、静かに考え込む。
「逆に言えば……重工業が発達すれば、かなり強い国になるわね」
食料がある。石油もある。
そして軍の規模も大きい。
足りないのは工業力だけ。
共和国とは、お互いに補い合える関係になる可能性がある。
私はラインへ顔を向けた。
「会うことにするわ。日程の調整をお願い」
ラインは一礼する。
「承知いたしました」
私は窓の外へ目を向けた。
フィン国に続き、今度はルマニア国。
共和国を取り巻く外交は、少しずつ新しい局面へ入り始めていた。
数日後。
予定どおり、ルマニア国との会談が行われた。
応接室へ案内された外交官は、丁寧に一礼する。
「本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます」
私は微笑みながら頷いた。
「いえいえ。それで、本日の会談の内容とは?」
外交官は姿勢を正し、静かに口を開いた。
「我が国は、シア国と長い国境を接しております。近頃、そのシア国の軍事行動が活発化しております」
私は黙って耳を傾ける。
「我が国も装備の近代化を進めておりますが……」
外交官は苦笑を浮かべた。
「思うようには進んでおりません。そこで、海外から兵器を購入する方針となりました」
ここまでは予想どおりだ。
しかし、外交官は少し表情を曇らせる。
「ですが、多くの国はシア国との関係を気にしており、積極的に応じてはいただけません。唯一、本国から前向きな返答を頂きましたが……距離も遠く、輸送にも時間と費用が掛かります」
私は小さく頷いた。
「それで共和国へ、ということですね」
「はい」
「共和国はチュコ地区の編入により、我が国と国境を接することとなりました。さらに近年の工業力や兵器開発についても、高く評価しております」
外交官は真っ直ぐ私を見つめる。
「そこで、貴国にも装備購入をご相談できればと考え、本日参りました」
私は椅子にもたれながら静かに考える。
「なるほど……」
頭の中で点と点が繋がっていく。
恐らく、フィン国との話を聞きつけたってところかな?
共和国が兵器輸出に前向きだという話は、すでに周辺国へ伝わり始めているのだろう。
それに、本国もシア国との関係はあまり良くない。でも、物理的な距離だけはどうにもならない。
遠方の国から兵器を買うより、隣国から購入した方が輸送も補給も圧倒的に有利だ。
私は地図を思い浮かべながら、小さく頷いた。
「となれば……国境を接する我が国へ相談が来るのも自然な流れね」
私は外交官へ視線を戻した。
「事情は理解しました。まずは、どのような装備をご希望なのか、お聞かせいただけますか」
共和国の兵器は、今や自国を守るためだけではない。
周辺国の安全保障にも影響を与える存在になり始めていた。




