支援の決断
会議室。
海軍の議題が一段落したところで、私は国防大臣へ視線を向けた。
「それと、国防大臣」
「はい」
「フィン国から一号戦車の購入を打診されているのは知っているわね」
国防大臣は静かに頷く。
「はい。その件につきましては耳に入っております」
私は机の上の資料を閉じた。
「我が軍への装備充実を優先しなければならないことは理解しているわ。ですが――」
部屋の空気が少し引き締まる。
「私は、一号戦車だけではなく、三十八t戦車も輸出したいと考えています」
国防大臣は驚いた表情を浮かべたが、黙って続きを待った。
「それだけじゃありません」
「一〇九戦闘機。八七急降下爆撃機。これらも輸出対象に加えたいと思っています」
「……え?」
国防大臣は思わず目を見開いた。
「最新鋭の一〇九と八七も……でありますか?」
海軍総司令官ダーレーも驚いたように私を見る。
私は静かに頷いた。
「ええ。もちろん大量ではないわ。我が軍の配備に支障が出ない範囲で構わない。でも、早いうちに引き渡して、慣れてもらいたいの。戦争が始まってから訓練を始めても遅いでしょう?」
国防大臣は腕を組みながら考え込む。
「確かに……兵器はあっても、扱えなければ意味がありませんな」
「そのとおりです」
私は続ける。
「輸出できる台数と機数を確認してください。可能な限り、優先して回したいと思っています。ただし、共和国軍の戦力を落とすような無理はしないこと」
国防大臣は力強く敬礼した。
「承知しました!各部隊の配備状況と生産計画を確認し、輸出可能な数量をご報告いたします」
ダーレーも続けて頷く。
「海上輸送につきましても、安全な輸送計画を検討いたします」
私は満足そうに微笑んだ。
「では、お二人ともよろしくお願いします」
「はっ!」
二人は敬礼すると、足早に会議室を後にした。
私は北方の地図へ目を向ける。
共和国が送り出す兵器は、やがてフィン国の空と大地を守る力になるかもしれない。
その選択が、北方の未来を大きく左右しようとしていた。
会議室。
海軍と国防省の関係者が退出すると、入れ替わるように鉄道局と鉄道車両メーカーの技術者たちが入室した。
「お忙しいところ集まっていただき、ありがとうございます」
私は全員を見回す。
「今回、お集まりいただいた目的は、我が国とフィン国の鉄道についてです」
地図を広げ、国境を指差した。
「現在、共和国とフィン国では鉄道の線路幅が異なっています」
技術者たちは静かに頷く。
「そのため貨物を運ぶ場合、国境で積み替えが必要になります。時間も人手も掛かる。私はこれを何とかしたいのです」
会場が静まり返る。
「まず、貨車の車輪……と言えばいいのかしら?当然ですが、線路幅が違えばそのままでは走れません。そこで提案です」
私はゆっくりと言葉を続けた。
「どちらの線路幅にも対応できる貨車を開発してください」
「……え?」
会場のあちこちから驚きの声が漏れた。
私は頭の中の曖昧な記憶を辿りながら説明を続ける。
「理想としては、速度を落として専用設備を通過するだけで、車輪の幅がゆっくり広がったり、逆に狭まったりするような仕組みです」
その瞬間、会場がざわついた。
「そんなことが……」
「可能なのか?」
「構造がまるで思い浮かばない……」
技術者たちは顔を見合わせながら小声で議論を始める。
私はさらに続けた。
「もちろん、貨車だけではありません。将来的には機関車にも同じ仕組みを取り入れたいと考えています」
ざわめきはさらに大きくなった。
「機関車まで……」
「難易度が高すぎるぞ」
私は苦笑しながら肩をすくめる。
「ええ、簡単ではないことは分かっています。だから、すぐに完成させろとは言いません。ですが、研究は始めてほしいのです」
私は地図の国境部分を指差した。
「もちろん車両だけでは対応できないでしょう。レール側にも工夫が必要になるかもしれません。要は、線路幅の違う区間を、積み替えなしで走れるようにしたい」
技術者たちは真剣な表情で図面へ目を落とす。
一人の技師がゆっくりと口を開いた。
「総統閣下。すぐに実現できるとは申し上げられません。ですが……非常に挑戦しがいのある課題です」
別の技師も頷く。
「まずは設計案をまとめ、試作の可能性を検討いたします」
私は満足そうに微笑んだ。
「期待しています」
兵器だけでは国は強くならない。
それを運ぶ鉄道もまた、共和国を支える重要な力になるのだから。




