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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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全権委任法とは

議会が終わるなり、私はラインへ詰め寄った。


「ラインさん! どういう事!?そもそも全権委任法って何!?」


ラインは慌てることもなく一礼した。


「ご説明いたします」


「お願いいたします」


歩きながらラインは静かに話し始めた。


「きっかけは、現在の野党であります」


「野党?」


「はい。正確には旧与党の議員達です」


私は頷く。


「もちろん、全員ではありません。ですが、一部の議員は私利私欲ばかりを優先し、国政より政争を重視しております」


「それは私も今日見たわ」


欠席。審議拒否。出席しても発言しない。

批判するだけで代案も出さない。


「あれじゃ議会にならないものね」


「そのとおりであります」


ラインは続ける。


「与党内では以前から、このような意見が出ておりました」


『野党が議会の役割を果たさないのであれば、本当に必要なのか』


「その議論が今回の法案へと繋がったのであります」


「なるほど……」


流れは理解できた。

しかし、一番重要な部分がまだ分からない。


「それで?全権委任法って何なの?」


ラインは一枚の資料を差し出した。


「この法律は、議会が一定の条件を満たした場合に限り、特定の分野について政府へ立法権限を委任できる法律であります」


「立法権限を?」


「はい」


「通常であれば法律は議会で一つずつ審議し、可決しなければ成立しません。しかし緊急時や、議会が正常に機能しない場合には、事前に議会が定めた範囲内で、政府が政令を法律と同等の効力を持つものとして施行できるようになります」


私は資料へ目を落とした。


「つまり……毎回議会を開かなくても済むってこと?」


「そのとおりであります」


共和国は急速に拡大している。


外交。軍事。経済。行政。


毎日のように新しい問題が発生する。

そのたびに議会を招集していては、対応が遅れる。


「だから迅速に政治を進めるための法律なのね」


「はい」


ラインは頷いた。


「ただし、無制限ではありません。委任できる期間、分野、権限には制限が設けられております。議会による事後報告も義務付けられております」


私は小さく息を吐いた。

便利な法律だ。


だが――。


「……使い方を間違えれば危険ね」


ラインは真剣な表情で頷く。


「そのため、この法案は何度も与党内で協議を重ねました」


「権限は必要。しかし暴走は許さない。その均衡を取るための法律であります」


私はもう一度資料へ目を落とした。

便利だからこそ、慎重に扱わなければならない。


そんな法律なのだと理解した。


「それと、総統」


ラインが新たな書類を差し出した。


「フィン国向けの武器弾薬の輸出が開始されました」


「船便による輸送手配も完了しております。今回もかなりの量をご注文いただきました」


私は報告書を受け取り、目を通す。


「そっちは順調そうね」


「はい」


「既に第一便が出港しており、今後も順次積み込みを行う予定です」


「これだけの量なら、工場もしばらく忙しくなりそうね」


「そのとおりであります」


ラインは一枚、別の書類を取り出した。


「それと、追加のご報告がございます」


「何?」


「フィン国より、一号戦車の購入希望が届いております」


「え?」


思わずラインの顔を見る。


「戦車も?」


「はい。そのようです」


「小火器や砲だけじゃなく?」


「はい。戦車部隊の創設を視野に入れているものと思われます」


私は腕を組んだ。


「とうとう戦車まで輸出する時代になったのね」


一号戦車は共和国軍でも運用実績のある車両だ。


性能は決して最新ではない。

しかし、歩兵支援や治安維持には十分な能力を持っている。


「在庫は?」


「訓練用車両を含めれば輸出可能な車両を確保できます。生産ラインへの影響も軽微です」


「なるほどね……」


私は少し考え込む。


「フィン国とは友好的な関係だし、断る理由もないわね。軍とも相談して、輸出できる台数をまとめましょう」


「はっ」


ラインは敬礼し、新たな指示を書き留め始めた。

共和国の兵器は、今や国内だけではなく、海外からも求められる存在になりつつあった。

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