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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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見えた課題

共和国陸軍試験場。


私はラインや陸軍幹部と共に、戦車運用試験の視察へ訪れていた。


広い試験場には、何十両もの戦車が並んでいる。


共和国製一号戦車。


そして、まだ配備が始まったばかりの二号戦車。


さらに、一際大きな車体を持つ元チュコ軍の三十八トン戦車。


「こうして並ぶと……」


私は思わず呟く。


「三十八トン戦車は、いかにも”戦車”って感じね」


一号、二号戦車は小柄で訓練と製造の工程、確認の為の試作を主に重視した設計だ。


対して三十八トン戦車は車高も高く、装甲も厚い。


存在感がまるで違う。

やがて模擬戦が始まった。


様々な組み合わせで部隊を編成し、運用試験が進められていく。


私は双眼鏡を覗きながら戦況を追う。


「うーん……」


軽快に走り回る一号戦車。

それに続く二号戦車。


三十八トン戦車は、その動きに少し振り回されているように見えた。


「前へ出ると少し鈍いわね」


しかし別の試験では違う結果になった。


一号、二号戦車が前衛。


三十八トン戦車が少し後方から火力支援。


「……これは悪くないわね」


重装甲と火力を生かした支援役。

こちらの方が自然に見える。


だが。


「何か連携がぎこちない……」


命令が噛み合わない。

攻撃のタイミングが微妙にずれている?

私は隣にいた試験部隊の指揮官へ尋ねた。


「何か原因は分かっていますか?」


指揮官はすぐに答えた。


「はい。あの三十八トン戦車には無線機が搭載されておりません」


「無線が?」


私は改めて戦場へ目を向ける。


ちょうど車長らしき兵士が砲塔から上半身を乗り出していた。


周囲を確認する。操縦席へ身を戻す。


何かを叫ぶ。


それからようやく車体が動き始める。


「……なるほど」


私は苦笑した。


「だからワンテンポ遅れるのね」


状況確認。判断。操縦士への指示。動き出す。


その間に、一号や二号戦車は次の行動へ移ってしまう。


「これでは連携は難しいわ」


私は腕を組む。


「無線機は必須ね」


その言葉に陸軍幹部たちも頷く。


「我々も同じ結論です。共和国軍の運用思想では、無線なしでの部隊行動は限界があります。現在、搭載方法を検討しております」


私は小さく笑った。


「やっぱり、もう気付いていたのね」


優秀な指揮官たちだ。


実際に運用すれば、机上では見えなかった欠点が見えてくる。


それこそが試験の意味でもある。

私は試験場を見渡した。


「共和国軍仕様が、少しずつ形になってきたわね」


そして最後に、整備担当者へ向き直る。


「今後生産する三十八トン戦車には、全車無線機を標準装備してください。戦車一両の性能より、部隊全体が連携できることの方が重要です」


「了解しました!」


共和国軍の新たな標準仕様が、この日また一つ決まった。


模擬戦が一段落した頃。

整備主任が新たな資料を差し出した。


「総統、もう一点ございます」


「何かしら?」


「三十八トン戦車ですが……少々小型すぎます」


「小型すぎる?」


私は首を傾げた。

装甲も厚く、火力も十分。

一見すると欠点は少ないように見える。


「はい」


技術主任が頷く。


「現在の三十八トン戦車では、車長が砲弾の装填作業も兼任しております」


「そのため、周囲を確認しながら部隊を指揮する余裕がありません」


「なるほど……」


私は先ほどの模擬戦を思い返した。

砲塔から身を乗り出し周囲を確認する車長。

そして車内へ戻る。

さらに砲弾を装填し、射撃準備を整える。

それでは指揮に集中できるはずがない。


「だから連携も遅れるのね」


「その通りです」


技術主任は続ける。


「一方、現在開発中の三号戦車は車体を一回り大型化しております。乗員も一名増える予定です」


「つまり……」


「専任の装填手を配置できます。車長は部隊指揮だけに集中できる構成になります」


私は感心して頷いた。


「それは大きいわね」


技術主任はさらに図面を広げる。


「車体にも余裕がありますので、現在は三十七ミリ砲を予定しておりますが、将来的には五十ミリ砲への換装も可能です」


「拡張性があるということか」


「はい」


私は腕を組み、しばらく考え込んだ。


「三号戦車は中止してもいいかと思っていたけれど……」


首を横に振る。


「やっぱり継続ね」


三十八トン戦車は即戦力。


しかし、それだけでは共和国軍の未来は築けない。


「三十八トン戦車の代わりには、なりそうもないわ」


その言葉に陸軍幹部も力強く頷いた。


「左様であります。三十八トン戦車は現戦力。三号戦車は共和国軍の次世代主力。両者は競合ではなく、役割が異なります」


私は微笑む。


「なら答えは決まりね。三十八トン戦車は共和国軍仕様へ改修し量産。三号戦車は予定どおり開発を継続。共和国軍は二本立てで進めましょう。」


「了解しました!」

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