新たな戦車
総統執務室。
机の上には今日も書類の山が積まれていた。
「……多いわね」
私は一枚読み終えると、次の書類へ手を伸ばす。
「はぁ……」
小さくため息をついた。
事務作業は嫌いではない。
むしろ、数字や資料を整理するのは得意な方だ。
それでも。
「パソコンがあれば、もっと楽なのに……」
思わず本音が漏れる。
前世では当たり前だった電子文書。
検索機能。表計算ソフト。
ボタン一つで資料を探せた日々が、今では夢のようだ。
「……まあ、無いものをねだっても仕方ないわね」
タイプライターが普及しているだけ、この世界では十分恵まれている。
私は苦笑しながら次の書類を開く。
「ん?」
表紙には大きく書かれていた。
『チュコ新型戦車受領について』
「もう届いたの?」
思わず目を丸くする。
「対応が早いこと」
私は書類を読み進めた。
共和国陸軍が試験車両十両を受領。
各種運用試験を実施。
試験結果を基に共和国軍仕様への改修案をまとめる。
改修完了後、本契約へ移行。
「予定どおりね」
そこまでは予想どおりだった。
しかし、私は次の資料で手を止める。
「……そういえば」
共和国が独自開発している戦車。
三号戦車。
「まだ完成には時間が掛かるのよね」
開発は順調。
しかし、試作段階を抜けるにはまだ時間が必要だ。
一方。チュコ製三十八トン戦車は、既に完成している。
三十七ミリ砲搭載。四名乗り。
量産体制も整っている。
「だったら……」
私はペンを手に取った。
『運用試験の結果が良好であれば、追加製造を認める』
さらに書き加える。
『共和国軍仕様への改修内容を反映した上で、生産を継続すること』
書類へ署名する。
「完成している兵器を使わない理由はないわ」
共和国軍も新型戦車を必要としている。
開発中の三号戦車を待ち続けるより、今使えるものを改良する方がはるかに合理的だ。
その頃、共和国陸軍では。
「ほう……」
運び込まれた三十八トン戦車を前に、試験部隊の士官たちが興味深そうに見つめていた。
「チュコ製か」
「性能が本物なら、面白いことになるぞ」
共和国軍初のとなる、三十七ミリ砲搭載の本格的な運用試験が、静かに始まろうとしていた。




