最大の懸案
総統執務室。
私は外交文書へ目を通していると、勢いよく扉が開いた。
「総統!」
ラインが珍しく息を弾ませながら駆け込んでくる。
「チュコへ派遣している隊から緊急報告です!」
私は思わず立ち上がった。
「例の件、決着がついたそうです!」
その一言を聞いた瞬間、全身から力が抜けた。
「……ふぅ〜!」
思わず大きく息を吐く。
「良かった……」
ラインも安堵した表情を見せる。
「はい。金塊の一部は海外の銀行に保管されていたようです」
「そちらについては、所有権の名義変更手続きを進めるとの報告が入っています」
私は静かに頷く。
「現物は?」
「首都中央銀行へ輸送する予定です。親衛隊が護衛に当たります」
私は即座に指示を出した。
「護衛を増派して!絶対に事故は起こさせないで」
「はっ!」
ラインは敬礼すると、すぐに部屋を出ていく。
扉が閉まると、私は再び椅子へ腰を下ろした。
「これで……」
小さく笑みがこぼれる。
「目の前の一番大きな山は越えたわね」
共和国がチュコを受け入れる以上、財政基盤の確保は最優先だった。
その最大の懸案が、ようやく片付いた。
「ふぅ……」
自然と肩の力が抜ける。
「これで問題解決……」
そう口にしかけて、私は苦笑した。
「……なんて、言えないわね」
机の上には、まだ分厚い報告書の山が積まれている。
現地の行政。企業との契約。外交問題。
各国の反応。
どれも共和国として整理しなければならない案件ばかりだ。
ラインが戻ってきた。
「護衛隊への命令は完了しました」
「ありがとう」
私は一枚の報告書を手に取る。
「さて、各省からの報告も揃い始める頃ね」
現地調査の結果。行政機構の状況。軍の再編。
経済の実態。
これらを整理し、共和国として正式な方針を示さなければならない。
「また世界へ向けて発信しなくちゃ」
私は静かに立ち上がる。
金塊の確保は終わった。
だが、それは共和国の新しい歴史が、本当の意味で始まる合図でもあった。
九二七年、冬。共和国はチュコ国の帰属手続きを正式に進めることを世界へ宣言した。この日を境に、大陸の勢力図は大きく動き始めることとなる。




