待つ時間
総統執務室。
机の上には、各国から届いた外交文書が山積みになっていた。
私は一枚一枚目を通しながら、小さく息を吐く。
「各国の反応も、本当に様々ね」
共和国を支持する国。慎重な姿勢を示す国。
強く批判する国。
そして、静観を決め込む国。
まさに千差万別だった。
「まあ……そうなるわよね」
これだけ大きな出来事だ。
すべての国が同じ反応を示すはずがない。
「外務省には、これまでどおり個別対応をお願いしましょう」
「承知しました」
ラインが手帳へ書き留める。
私は次の書類へ手を伸ばしかけたが、その手を止めた。
「それよりも……」
気になるのはチュコだ。
派遣した各省の職員。
親衛隊。そして、クーデター派との連絡班。
「無事に接触は完了したのよね」
「はい」
ラインは頷く。
「第一報では問題なく合流したとのことです」
「そう」
私は机の上で指を動かした。
トン。トン。トントン。
静かな執務室に、小さな音だけが響く。
「今頃は、情報収集と例の件を進めている頃かしら……」
ラインも静かに頷いた。
「おそらく各省とも、現地の状況把握を最優先に動いているはずです」
私は椅子にもたれかかった。
「これが上手くいけば、一番大きな問題は一気に解決する」
逆に失敗すれば、帰属そのものが揺らぎかねない。だからこそ、焦ってはいけない。
「連絡体制は?」
「既に確立しております」
「定時報告に加え、緊急案件は暗号通信で随時送られてきます」
「そう」
私は窓の外へ目を向ける。
共和国の街は、いつもと変わらない穏やかな景色だった。
しかし、その裏では各省が昼夜を問わず動いている。
現地では情報省が情報を集め。
外務省が臨時政府と協議し国防省が治安を確認し、親衛隊が彼らを守っている。
共和国の未来を左右する仕事が、今まさに進んでいた。
「今は待つしかないわね」
焦っても結果は変わらない。
報告が揃い、各省の分析が終わって初めて次の一手が打てる。
ラインは静かに一礼した。
「報告が入り次第、すぐにお伝えいたします」
「お願い」
私は再び机の書類へ視線を落とした。
今、総統にできる仕事は、待つこともまた仕事だった。




