引き継がれる契約
応接室。
向かい合って座る二人の男性は、緊張した面持ちで深く頭を下げた。
「私はチュコモラ社開発部のサルフと申します」
「チョコタ社開発部のルフと申します」
私は軽く頷いた。
「どうぞ、お掛けください」
二人は席へ着くと、サルフが口を開いた。
「お忙しい中、我々のような一企業、それも一開発者にお時間を割いていただき、誠にありがとうございます」
「いえ、お気になさらず」
私は穏やかに微笑む。
「本国があのような状況になれば、不安になるのも当然です。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
今度はルフが話し始めた。
「昨日の記者会見で、総統閣下はチュコ国の契約や条約について誠実に対応するとお話しされました」
「はい」
「その対象には……民間企業との契約も含まれるのでしょうか」
私は即座に答えた。
「そのつもりです。何かチュコ政府との契約があったのですか?」
二人は顔を見合わせる。
そしてサルフが、ゆっくり資料を机へ広げた。
「実は――」
話を聞き終え、私は静かに腕を組んだ。
事情は単純だった。
チュコモラ社とチョコタ社は共同で、新型三十八トン戦車二百両をチュコ政府へ納入する契約を結んでいた。
製造はほぼ終了。納入直前だった。
しかし、その発注先である政府が消滅した。
契約だけが宙に浮いてしまったのである。
「このままでは会社が倒産します」
ルフは苦しそうに言った。
「幸い、私たちは共和国への視察中でした。本社から『共和国政府へ事情を説明してほしい』と連絡を受け、本日参りました」
私は静かに頷いた。
「事情は理解しました。契約関係については法的な確認が必要です。ですが、共和国政府として支払い義務があると判断されれば、誠実に履行するつもりです」
二人の表情が少しだけ和らぐ。
ところが次の瞬間。
サルフの目が輝いた。
「でしたら総統閣下!」
机いっぱいに設計図が広げられる。
「こちらが三十八トン戦車になります!」
私は思わず瞬きをした。
「……え?」
「主砲は三十七ミリ砲!乗員四名!新型懸架装置を採用し――」
そこから先は完全に技術説明だった。
装甲厚。最高速度。変速機。砲塔旋回速度。
次々と専門用語が飛び出してくる。
……プレゼンになってる。
私は苦笑を堪えながら最後まで話を聞いた。
説明が終わると、私は一つ提案する。
「いきなり二百両を受領するのは現実的ではありません」
二人が息を呑む。
「まず十両を共和国陸軍が先行して受領します」
「実戦運用を想定した各種試験を行い、共和国軍仕様として改良点をまとめます」
二人は真剣な表情で聞いている。
「その改修内容を反映した上で、残りについて正式契約を結び直しましょう」
しばらく沈黙が流れた。
そして二人は勢いよく立ち上がる。
「ありがとうございます!必ず共和国軍に相応しい戦車へ仕上げます!」
深々と頭を下げる二人を見送りながら、私は小さく息をついた。
「……これで終わり、とは思えないわね」
ラインが苦笑する。
「ええ」
「他の企業も同じ問題を抱えているでしょう」
私は窓の外を見つめた。
「これから、こういう相談が次々と来るわね」
チュコという国家を受け継ぐということは、領土だけではない。
そこに生きる企業も、人も、そして契約もまた、受け継ぐということだった。




