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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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敗戦国の朝

講和条約が発表されてから数日。


私は久しぶりに領都へ向かった。

杖をつきながら馬車を降りる。

街並みは変わっていない。


石畳。煉瓦造りの建物。市場へ向かう人々。

それなのに、どこか景色が違って見えた。

私はその違和感の正体にすぐ気付く。


「旗が……ない」


昨日まで掲げられていた帝国旗が消えていた。


役場からも。駅からも。商店からも。

風になびいていた旗は、どこにも見当たらない。


戦争が終わった。帝国も終わった。


その事実を静かに物語っていた。


市場へ入ると以前ほどの活気はない。

人はいる。店も開いている。

だが、誰もが不安そうな顔をしていた。


「これからどうなるんだろうな」


「賠償金なんて払えるのか?」


「仕事は残るのか?」


「また物価が上がるんじゃないか?」


そんな会話ばかりが聞こえてくる。

私はゆっくり歩きながら耳を傾けた。

皆が同じことを考えている。

未来が見えない。それが一番恐ろしい。


しかし、市場を一周しているうちに、少し気になることがあった。


「伯爵家が買い集めていたらしいぞ」


「俺も昨日、種を買ってきた」


「農具も残っているうちに手に入れた」


「肥料はもう少し確保した方がいいな」


私は思わず足を止めた。話題が変わっている。

不安だけではない。


「どう動けばいいか」


という話になっている。

野菜を並べていた店主が笑いながら話す。


「伯爵夫人のお話を聞いて助かったよ」


「危うく金貨を抱えたまま様子を見るところだった」


隣の男性も頷く。


「俺は聞いてないけどな」


「町中で噂になってる」


「食料と種を確保しろって話だろ?」


「そうそう」


「実際、伯爵家もやってるらしい」


私は少しだけ微笑んだ。

噂は思っていた以上に広がっているらしい。

もちろん、全員が落ち着いているわけではない。今にも泣き出しそうな人もいる。

将来を悲観する者もいる。


だが、数日前とは空気が違った。


不安だけではなく。行動する人が増えている。

私は前世を思い出す。

紛争地域では、情報がないことが最大の敵だった。


何が起きるか分からない。

何を準備すればいいか分からない。

その不安が混乱を大きくする。

だから私は何度も学んだ。


人は、未来が見えないから恐れる。


逆にやるべきことが一つでも分かれば、人は動き始める。


帰り道。

私は馬車の窓から市場を眺めた。

一人の農夫が荷馬車へ肥料を積み込んでいる。

別の商人は保存食を運んでいる。

子供達は何も知らず遊んでいる。

小さな変化だったが確かな変化だった。


屋敷へ戻ると、母が庭に積まれた荷物を確認していた。


「市場はどうだった?」


私は笑顔で答える。


「まだ皆さん不安そうでした。でも、お母様のお話が広まっています」


母は少し驚いた顔をする。


「そうなの?」


「直接聞いていない人まで知っていました。噂になっているみたいです」


母は照れくさそうに笑った。


「そんな大したことはしていないわ」


私は首を横に振る。


「いいえ。大したことです。情報があるだけで、人は落ち着けます」


母は何も言わなかった。

ただ静かに庭を見つめる。

私は空を見上げた。


帝国は終わった。


だが人々の暮らしは終わらない。

畑を耕し。種を蒔き。収穫し。

家族を養う。その営みは続いていく。

私は小さく息を吐く。


敗戦国の朝は、不安から始まった。


しかしその不安の中にも、小さな希望の芽が、少しずつ育ち始めていた。

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