勝利の裏側
共和国親衛隊本部。
会議室には急遽招集された幹部たちが顔を揃えていた。互いに顔を見合わせながら、小声で話し合う。
「ライン殿、何があったのです?」
「ここまで急ぐとは、余程のことなのでしょうか?」
やがてラインが入室すると、室内は静まり返るり、ラインは全員を見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「まだ極秘事項だ」
その一言で空気が張り詰める。
「チュコ国の政府は既に倒れた。そしてクーデター派は共和国への帰属を申し出る予定となっている」
一瞬の静寂。
次の瞬間――。
「おおっ!」
「ヴィルがやったのか!」
「やはり、あいつは期待を裏切らんな!」
「これは祝杯ものですな!」
歓声が上がる。
「共和国史上最大の成果ではありませんか!」
興奮気味に語る幹部たちを見ながら、ラインは静かに手を上げた。
「まだだ」
その一言で再び静まり返る。
「総統閣下は、この件をご存じなのですか?」
一人が尋ねる。
ラインは首を横へ振った。
「まだ知らせていない」
「何故です?」
「今この段階で話せば、我々親衛隊が疑われる」
幹部たちは顔を見合わせる。
ラインは続けた。
「総統閣下の性格は理解しているだろう?正式な外交ルートもなく、情報省からの報告もない段階で我々だけが知っている。そんな状況なら、必ず情報源を確認される」
「……確かに。ライン殿の言う通りです」
「だから正式発表までは極秘だ」
全員が静かに頷いた。
ラインは机へ両手を置く。
「さて。喜ぶ前に、一つ提案がある」
会議室の空気が変わる。
「今回の件が成功すれば、共和国は二か国目を迎えることになる」
誰も異論はない。
ラインはゆっくりと言葉を続けた。
「だが、考えてみろ。もし――共和国で同じことをされたら?」
会議室が静まり返る。
「……!」
幹部たちの表情から笑みが消えた。
一人が腕を組む。
「確かに……」
「我々は反政府勢力など、歯牙にも掛けていませんでした」
別の幹部も続ける。
「共和国は市民の支持が厚い。それが前提でしたから」
ラインは静かに頷く。
「そうだ。だが、本当にそう言い切れるか?」
誰も答えられない。
「もし何らかの理由で市民が立ち上がったら?総統閣下のことだ。武力で国民を弾圧するくらいなら、自ら身を引くことを選ぶだろう」
幹部たちも苦い表情を浮かべる。
「……否定できませんな」
「総統閣下なら、そうされるでしょう」
ラインは部屋を見回した。
「我々は『そんな事態は起こらない』という前提で動いてきた。しかし、その前提が崩れた瞬間、共和国は非常に脆い国家になる」
一人の幹部が静かに呟く。
「なるほど……土台そのものを見直す必要があるのか」
ラインは力強く頷いた。
「そうだ。だから今日は祝勝会ではない。共和国をどう守るか。その仕組みを議論したい」
幹部たちは姿勢を正した。
先ほどまでの喜びは消え去り、会議室には共和国の未来を守るための重苦しい空気だけが残っていた。




