未来を映す瞳
共和国・ネミュンデ兵器実験場。
共和国各地から集められた技術者や研究者が、巨大な研究施設で昼夜を問わず開発を続けていた。
建物の外では、見慣れない大型のアンテナがゆっくりと回転している。
ベレはその様子を眺めながらラインへ尋ねた。
「ここがネミュンデ兵器実験場?」
ラインは頷く。
「はい。主に新兵器の研究開発施設です。とは言いましても、陸・海・空軍の共通技術を中心に研究しております。企業や大学、研究所では難しい大型研究を、ここへ集約しております」
「なるほど」。一か所に集めた方が効率がいいものね」
建物へ入ると、一人の男性が敬礼した。
「ようこそお越しくださいました、総統閣下。責任者を務めております、ドルフ・キューンであります」
ベレも笑顔で握手を交わす。
「こんにちは。よろしくお願いします」
「こちらこそ。早速ですが、現在ここで最も力を入れている研究をご案内いたします」
一行は巨大な実験室へ案内された。
壁一面に配線が張り巡らされ、その中央には巨大なアンテナが設置されている。
「こちらが現在開発中のレーダーであります」
ベレは頷いた。
「そうだったわね!各企業や研究所をここへ集めて共同開発するよう指示したのだったわ」
ドルフは資料を広げる。
「現在、航空機に対して約二十キロ先まで探知可能となりました。しかし、目標の高度を測定することはまだできません。また探知距離も実用化には十分とは言えず、改良を続けております」
ベレは静かに資料へ目を落とした。
「確かに。距離だけでは不十分ね。高さまで分からなければ迎撃のタイミングが難しい」
ドルフも頷く。
「我々も同じ結論に至っております。高度測定と探知距離の延長を最優先課題としております」
ベレは巨大なアンテナを見上げながら言った。
「地対空だけじゃなくて、艦艇にも搭載できるようにしてほしいわ」。船なら航空機だけじゃなく、敵艦も探知できれば役立つでしょう?」
ドルフは即座に答える。
「はい。海軍からも同様の要望が出ております。対空・対艦の両方に対応できる装置を目標としております」
ベレはさらに考え込む。
「それと将来になるでしょうけど……航空機にも積めたら便利そうよね。近距離だけでも周囲が見えるようになれば、夜間や悪天候でも飛びやすくなるかもしれない」
ドルフは目を見開く。
「航空機に……レーダーを?」
「はい。今は大き過ぎるでしょうけど、小型化できれば可能性はあると思うの」
技術者たちは顔を見合わせる。
「確かに……」
「小型化できれば不可能ではない……」
「面白い発想です」
ベレは苦笑した。
「夢物語かもしれないけどね。でも、技術は夢から始まるものだから」
ドルフは深く頷いた。
「研究課題へ加えさせていただきます」
ベレはしばらく考えたあと、再び口を開いた。
「あと、もう一つ」
「何でしょうか」
「熱を探知することってできないかしら?」
「熱……ですか?」
「そう。航空機も戦車も軍艦も、エンジンを動かせば熱を出すでしょう?その熱を見つけられれば、暗闇でも敵を探せるんじゃないかと思って」
研究室が静まり返る。
ドルフはゆっくりとベレの方を見る。
「……なるほど。電波だけではなく、熱そのものを探知するという発想ですか」
隣にいた主任研究員が思わず呟く。
「もし実現できれば……煙や夜間でも敵を発見できるかもしれない……」
別の研究員も興奮気味に資料へ書き込み始める。
「赤外線……いや、熱線の研究も必要になるな」
ドルフは力強く敬礼した。
「総統閣下。どちらも実現は容易ではありません。しかし、未来の兵器として研究を開始する価値は十分にあります」
ベレは静かに微笑んだ。
「急ぐ必要はないわ。十年先でも二十年先でもいい。未来の共和国を守る技術を、一歩ずつ積み重ねていきましょう」
「はっ!」
研究者たちの力強い返事が、実験場いっぱいに響き渡った。




