翼の進化
共和国空軍試験飛行場。
広大な滑走路では、数機の練習機が次々と離陸し、青空へと舞い上がっていた。
ベレは空を見上げ、小さく微笑む。
「飛行機って、何度見ても不思議な気分になるわね」
隣に立つ空軍司令官が敬礼した。
「総統閣下。本日は現在開発、生産中の航空機をご案内いたします」
司令官は一機の戦闘機へ歩み寄る。
「こちらが現在量産を開始しております、一〇九戦闘機であります」
ベレは機体を一周しながら眺めた。
「思っていたより小型なのね」
「はい」
「速度と上昇性能を重視した迎撃戦闘機であります。現在、数十機の先行量産型が完成し、操縦士の訓練を進めております」
「なるほど。まずは操縦士を育てることが優先ね」
「その通りであります」
続いて司令官は格納庫の奥へ案内した。
そこには一回り大きく、どっしりとした機体が置かれていた。
「こちらが現在試験飛行中の一九〇戦闘機であります」
ベレは思わず笑みを浮かべる。
「こっちの方が、がっしりしてるイメージね。一〇九がサラブレッドなら、一九〇は軍馬って感じかしら」
周囲の技術者たちが思わず笑う。
「まさに、そのような機体を目指しております。一九〇は火力、防御力ともに向上させた機体であります」
「なるほど。役割を分けるのね」
司令官はさらに歩き出す。
「こちらが八七急降下爆撃機であります」
独特な形状の航空機を見ながらベレは興味深そうに頷く。
「急降下して目標を攻撃するのね」
「はい」
「高い命中精度を期待しております」
司令官はさらに双発の大型機を指差した。
「こちらが双発爆撃機であります。両機ともまだ生産数は少ないですが、生産を開始しております。ある程度の機数が揃いましたら、実戦を想定した訓練を開始する予定であります」
「なるほど」
ベレは満足そうに頷いた。
「操縦士の育成はどうかしら」
「現在は練習機による教育を中心に、大量育成を進めております。士官、下士官につきましても、士官学校及び下士官学校で教育中であります。総統閣下が整備された教育制度のお陰で、人材育成は順調に進んでおります」
ベレは少し照れくさそうに笑う。
「兵器だけあっても意味はないもの。使いこなす人が育ってこそ、本当の戦力になるわ」
司令官は力強く頷いた。
「その通りであります」
ベレは次の資料へ目を通した。
「新型輸送機の方はどう?」
「現在、開発中であります。積載量と航続距離の向上を目指しておりますが、完成にはもう少し時間が必要です」
「そう」
ベレはさらに質問を続ける。
「長距離を飛べる大型航空機は?」
司令官の表情が少し曇る。
「こちらは強力な航空エンジンの開発に難航しております。出力を上げると耐久性が不足し、耐久性を重視すると出力が足りません。実用化には、まだ時間が必要であります」
ベレは首を横に振った。
「急ぐ必要はないわ。新しい技術ほど、焦ると失敗するもの。試験を繰り返して、確実なものを作ってちょうだい。共和国に必要なのは、一機の試作品じゃない。何百機と安心して飛ばせる航空機よ。その土台を作ることを優先して」
「はっ!」
司令官は力強く敬礼した。
飛行場へ再びエンジン音が響く。
一〇九戦闘機が滑走路を駆け抜け、大空へと舞い上がった。
その姿を見つめながらベレは静かに呟く。
「空を制する者が、未来を制する」
共和国の翼は、着実に大空へ羽ばたこうとしていた。




