崩れゆく旧勢力
数週間後。
共和国政界は、かつてない激震に見舞われていた。
旧政府に深く関わっていた政治家たちが、次々と警察の捜査対象となる。
逮捕理由は一つではない。
贈収賄。公金横領。違法献金。公務員法違反。
脱税。
一人を調べれば新たな名前が挙がり、その人物を捜査すれば、さらに別の人物へと繋がっていく。
まるで芋づる式だった。
積み重ねられた証拠を前に、容疑を否認し続けられる者は少なかった。
共和国政府の調査委員会は最終報告をまとめる。
その結論は極めて厳しいものだった。
「旧政権には重大な統治上の欠陥が認められる。政治運営能力は著しく不足しており、監督責任も果たされていなかった」
報告書が公表されると、世論は一気に動いた。
翌朝。
記者ウス・ライが執筆した特集記事が新聞の第一面を飾る。
『腐敗は、ここまで広がっていた』
連日のように暴かれる新事実。
旧政権時代の不正。隠蔽。癒着。
国民の怒りは、旧政権を支えていた政党へ向けられていった。
党本部前では抗議集会が開かれ、日に日に参加者は増えていく。
怒号が飛び交い、一部では石が投げ込まれる騒ぎまで起きた。
警察長官ハイン・ムラーは、十分な警備部隊を配置しつつも、過度な実力行使は避けるよう現場へ命じる。
「平和的な抗議を不必要に刺激するな」
その判断もあり、抗議活動は連日新聞で大きく報じられた。
やがて世論に耐え切れなくなった所属議員たちは、一人、また一人と辞職届を提出する。
欠員となった議席では繰り上げや補欠選出が進み、シュタール労働者党は議席数を伸ばしていった。
官邸の窓から、その報告書を眺めるライン。
「……これでいい」
彼女の表情に笑みはない。
目的は政敵を倒すことではない。
共和国を、再び旧政府のような腐敗へ戻さないこと。
そのためなら、自らは誰にも知られぬ裏方であり続ける。
静かに書類を閉じたラインは、次の報告書へ手を伸ばした。
「まだ終わりではない」
さらに、裁判所の命令に基づき、有罪が認定された者や保全が必要と判断された資産について、警察による家宅捜索と資産の差押えが始まった。
表向きは、証拠保全と不正利益の回収。
それ以上でも、それ以下でもない。
しかし、その執行の日程は、不思議なほど新聞各社へ伝わっていた。
翌朝。
各紙の第一面には、大きな写真が並ぶ。
豪邸から運び出される名画。
高級ワインが詰め込まれた木箱。
宝石を納めた金庫。希少な骨董品。
次々と警察の車両へ積み込まれていく様子が、国民の目に映し出された。
「これが国民の税金で築いた暮らしか」
「共和国を食い物にしていた証拠だ」
世論はさらに旧政権へ厳しさを増していく。
新聞だけではない。
ラジオでも連日、この一連の事件が特集として取り上げられた。
「本日も旧政府関係者の資産差押えが行われました」
「調査は現在も続いております」
その放送は全国へ広がり、各地で大きな反響を呼ぶ。
旧政府与党への支持は日に日に失われ、所属議員は離党や辞職を繰り返した。
そして、ついに党執行部は緊急会議を開く。
長時間の協議の末、発表された結論は、わずか一文だった。
「本日をもって、我が党は解散する」
かつて政権を支配していた巨大与党は、静かに歴史の幕を閉じた。




