共和国の現在地
総統官邸。
「総統、国勢調査の集計が完了いたしました」
内務大臣が厚い資料を机へ置いた。
共和国で初めて実施された国勢調査。
数か月を掛けて全国を調査した、その結果だった。
ベレは資料を開く。
「ようやく来たのね」
「まず人口ですが」
内務大臣が読み上げる。
「総人口は約六千万人です」
ベレは静かに頷いた。
「思ったより多いわね」
「はい。戦後も人口規模そのものは依然として大国です」
次の資料がめくられる。
「年齢構成です。十五歳未満が約二五%。十五歳から六十四歳までが約六五%。六十五歳以上が約一〇%」
ベレは数字を書き留めていく。
「子どもは思った以上に多いわね。学校が足りない理由が分かった」
内務大臣も頷く。
「特に都市部では教室不足が深刻です」
さらに資料は続く。
「人口の都市集中ですが、首都圏と主要工業都市への流入が急速に進んでおります」
地図には赤い印が並んでいた。
地方から都市へ仕事を求め、人が移動している。
「だから住宅が足りなかったのね」
ベレは納得したように呟く。
「住宅公団だけじゃ足りない。学校も病院も一緒に整備しないと」
「はい。一方で地方では農家の減少が進んでおります。農業従事者の高齢化も始まっています」
ベレは眉をひそめた。
「農村から若い人が出ていってるのね」
「その通りです。工業化の影響と思われます」
次は工業の資料だった。
「技術者不足も深刻です。特に機械、航空、電気関係では人材が全く足りません」
ベレは苦笑した。
「飛行機もレーダーも自動車も、一気に始めたものね。人が追いついてないか」
「はい」
ベレはペンを取り、大きく丸を書いた。
「なら、次の五年間は人材育成を最優先」
官僚たちが一斉に顔を上げる。
「五年間?」
「ええ。共和国初の五か年計画を作ります」
会議室が静まり返る。
ベレは黒板へ次々と書いていく。
「鉄鋼、自動車、航空機、鉄道、発電、学校、住宅、通信」
八つの項目が並んだ。
「この八つを共和国の重点政策にします」
「鉄鋼は現在の約一・五倍、自動車は国民車を普及させる、航空機は旅客機と軍用機の両方を育成、鉄道は複線化を進める、発電所を増設し、電力不足を解消、学校は全国で新設、住宅公団も拡大、通信網は全国へ」
ラインが感心したように言う。
「随分と大きな計画ですね」
ベレは笑った。
「大きいくらいでちょうどいいの、目標がなければ、人はどこへ向かえばいいか分からないもの」
内務大臣が尋ねる。
「予算は相当必要になります」
「だから国勢調査をしたのよ」
ベレは資料を指差した。
「人口が多い地域には学校を。工場が少ない地域には企業を誘致。農家が減っている地域には農業支援。数字があるから、必要な場所へ必要なお金を回せる」
官僚たちは大きく頷いた。
これまで経験や勘で決めていた政策が、初めて数字に基づいて決められる。
ベレは最後に地図を見つめながら言った。
「共和国はもう、その場しのぎでは動かない。五年先、十年先を見据えて国を育てていく」
戦後復興は終わっていない。
だが、この日。
共和国は初めて、明確な未来への道筋を描き始めたのだった。




