未来を見据えて
総統官邸。
朝の定例会議。
ベレは最初の資料を手に取った。
「今日は、まず空軍の件ね」
航空局長が立ち上がる。
「一〇九戦闘機ですが、試験結果は良好です。現在、先行量産型の生産を開始しております」
ベレは資料を見ながら頷いた。
「順調そうね」
「はい」
「一方で、前回ご指示いただいた大型輸送機や大型爆撃機につきましては、まだ基礎設計の段階です」
「やっぱり、まだまだね」
ベレは苦笑する。
「飛行機は一朝一夕では作れないもの。焦らず、地道に開発を続けてください」
「承知しました」
その時だった。
ベレがふとペンを止める。
「……そういえば、レーダーってのあるのかしら?」
会議室が静まり返る。
航空局長も通信大臣も顔を見合わせる。
「レーダー……ですか?」
「電波を使って遠くの飛行機や船を探知する装置よ」
誰も答えられない。
ベレは肩をすくめた。
「やっぱり無いのね。でも、そのうち必要になる気がするの」
通信大臣が興味深そうに身を乗り出す。
「どちらの部署で研究を?」
「それが分からないのよ」
ベレは苦笑した。
「だから関係ありそうな部署全部に資料を回してください。通信、大学、軍、研究所、電機メーカー……『興味がある』『研究できそうだ』というところを一つにまとめて、共同開発してください」
会議室がざわつく。
これまで省庁ごとの研究はあっても、横断的な共同開発は珍しかった。
「優先研究案件として指定します。予算も優先的に配分してください」
「承知しました」
次に内務大臣が立ち上がる。
「国勢調査の途中経過です」
大きな地図が広げられる。
人口分布。都市への人口流入。農村の高齢化。
工業地帯の労働力不足。
次々と数字が並ぶ。
ベレは静かに頷いた。
「やっぱり、調査して正解だったわ。これなら、本当に必要な場所へ予算も人材も回せる」
内務大臣も笑顔を見せる。
「今後は学校や病院、住宅建設も、より効率的に計画できます」
「良かった」
会議は終わりに近づいた。
しかしベレはもう一つ気になっていたことを口にする。
「情報省にお願いがあるんだけど」
ヘルムが顔を上げる。
「はい」
「周りの国の国力って調べられる?」
「国力……ですか?」
「例えば」
ベレは考えながら言葉を選ぶ。
「どれだけ鉄を作っているか?石炭はどれくらい採れるか?工場の数、車や飛行機、船を年間どれくらい生産しているか?あと、資源がどれだけ採れて、それをどれくらい加工できるか?」
ヘルムは静かに頷く。
「経済力そのものを比較したい、ということですね」
「そう」
ベレは少し首を傾げた。
「GDPっていう便利な指標があったけど……」
もちろん、この世界にそんな概念はまだ存在しない。
「なら、無いものは作ればいいわ」
ヘルムの目が少し輝く。
「各国の工業力、生産力、資源保有量を数値化し、定期的な報告書としてまとめます。それなら共和国だけでなく、各国の変化も追えます」
ベレは満足そうに笑った。
「お願い。数字は嘘をつかないから」
ヘルムは一礼する。
「情報省の新たな任務として進めます」
会議が終わると、ベレは窓の外へ目を向けた。
戦争は軍隊だけでは決まらない。
工場。資源。道路。人口。経済。
それらすべてが、一つの国の力になる。
だからこそ、共和国は兵器だけではなく、「国そのもの」を強くしようとしていた。




