優先すべきもの
総統官邸。
ベレは机いっぱいに積まれた報告書を見ながら、小さくため息をついた。
「次から次へと思いがけないことが起こるわね……」
昨日まではトリア国の帰属宣言。
今日はその対応を考えなければならない。
しかし、共和国そのものも止まるわけにはいかない。
「この件は……」
ベレは一人呟く。
「今は連合国の判断に委ねましょう。その結果が出てから対応を考えればいい」
焦って共和国から動けば、かえって疑いを招く。
今は静観。
それが最善だと自分に言い聞かせる。
そこへラインが新しい資料を運んできた。
「総統、今度は陸軍からです」
「ありがとう」
ベレは資料を受け取り、一枚ずつ目を通していく。
「旧式装備の更新計画……小銃や機関銃、野戦装備などを順次新型へ更新します」
「うん、それは必要ね」
兵士の命を守るためにも、装備の近代化は欠かせない。
「承認します」
ラインが頷いた。
「それと、一号戦車ですが試験を終え、量産可能との判断が出ました」
ベレは少しだけ笑顔になる。
「やっとここまで来たのね。じゃあ、生産開始で」
「はっ」
「続いて二号戦車です。こちらは試作車が完成し、各種試験を行っております」
ベレは資料を閉じる。
「まだ急がなくていいわ。開発継続」
「承知しました」
陸軍の報告が終わると、今度は海軍の資料が運ばれてきた。
ベレはページをめくる。
戦艦。巡洋艦。建造費。維持費。必要人員。
読み進めるほど、その数字に目を丸くする。
「えっ……大型艦って、こんなにお金が掛かるの?」
ラインは苦笑する。
「はい。一隻建造するだけでも、国家予算に大きな影響を及ぼします」
ベレは腕を組んだ。
「これは……今の共和国には無理ね」
共和国はようやく復興の軌道に乗ったばかり。
住宅。道路。学校。病院。鉄道。
どれもまだ整備の途中だ。
「それに」
ベレは資料を閉じた。
「共和国は陸軍国家だもの。海軍へ同じだけのお金は回せないわ」
しばらく考え込んだあと、別の資料へ目を移す。
「潜水艦……」
ベレは少しだけ笑った。
「海の忍者、ね」
会議室から小さな笑いが漏れる。
「これくらいなら私でも知ってる。見つからずに行動して、不意を突く艦でしょう?」
海軍大臣が頷く。
「その認識で概ね問題ありません」
「なら」
ベレは決断した。
「大型艦の建造は当面見送り!その代わり、潜水艦の研究開発を優先してください!将来的な艦隊運用の基礎にもなります」
海軍大臣は深く頭を下げた。
「承知しました」
会議が終わるころには、机の上の資料もずいぶん片付いていた。
ベレは背もたれに身を預ける。
「こんなものかしら?」
ラインが微笑む。
「本日分は以上です」
「よかった……」
そう言った直後、ラインは机の端に置かれた分厚い書類へ目を向けた。
「ただ、総統。明日は空軍の新しい試験結果と、国勢調査の中間報告が届く予定です」
ベレは一瞬固まり、苦笑した。
「……終わらないわね、本当に」
共和国は今日も、一つずつ課題を片付けながら、少しずつ未来へ向かって歩み続けていた。




