積み重なる課題
数日後。
総統官邸。
朝一番、ラインが数冊の報告書を抱えて執務室へ入ってきた。
「総統。トリア国への支援について、ご報告です」
ベレは書類から顔を上げる。
「どうだった?」
ラインは安堵したように頷いた。
「武器弾薬、医療品、食料品ともに、問題なく搬入を完了しました」
「義勇軍として送り込んだ人員も、無事に入国したとの報告です」
ベレは胸を撫で下ろす。
「……そう。まずは、一段落ね」
「はい」
大きな問題もなく国境を越えられたことに、執務室の空気も少しだけ和らいだ。
しかし、ラインはすぐに別の報告書を取り出す。
「それと、情報省から新たな資料が届いております」
「何かしら?」
「トリア国の最新情勢です」
ラインは資料を読み上げた。
「現在、労働人口のおよそ三分の一が失業状態。食料自給率は約三〇パーセント。石炭などの主要燃料も、ほぼ全量を輸入に依存しております」
ベレは思わず腕を組む。
「なるほど……これで国民の不満が爆発したわけね」
「そのようです」
ヘルムも補足する。
「経済の立て直しが進まず、失業と物価高が重なった結果、現政権への反発が急速に強まっております」
ベレは静かに資料を閉じた。
「立て直しが、できていないのね……」
「はい」
ラインも頷く。
「ただ、一つ気になることがあります」
「何?」
「仮に現在の反政府勢力が勝利したとしても、その後どのような政府を築くのかは、まだ誰にも分かりません」
ベレは小さく息を吐いた。
「そこなのよね……政権を倒すことと、国を立て直すことは別問題。そこを間違えたら、また混乱が始まるだけだわ」
しばらく考え込んでいると、ラインはさらに別の報告書を取り出した。
「それと、国防省からです」
ベレは少し嫌な予感がした。
「……うん?」
「一〇九戦闘機」
「一九〇戦闘機」
「八七急降下爆撃機」
「八八双発爆撃機」
「現在、それぞれ――」
ベレは眉をひそめる。
「うぅ……数字ばかり……」
ラインは苦笑しながら続ける。
「一〇九戦闘機は、すでに試作機が完成し、飛行試験を実施しております」
「それと、一九〇戦闘機は――」
「ラインさん!」
ベレが慌てて手を上げる。
「ストップ!」
「はい?」
「頭の中が飛行機だらけになりそう!」
会議室から小さな笑いが漏れる。
ベレは苦笑しながら言った。
「後でゆっくり資料を読むから!今日は数字が多すぎるわ!」
ラインも思わず笑う。
「承知しました。では、後ほど改めてご説明いたします」
ベレは机の上に積み重なった報告書を見つめる。
内政。外交。軍備。情報。
一つ解決すれば、また次の課題が現れる。
総統という仕事に終わりはない。
ベレは苦笑しながら報告書を手に取った。
「さて……今日も頑張りますか」
共和国は今日も、一歩ずつ未来へ向かって歩み続けていた。




