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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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苦渋の決断

トントン。


静かな総統執務室に、机を指で叩く音だけが響いていた。


「私は……どうすればいいの」


ベレは机の上に広げられた資料を見つめる。


トリア国。元同胞。救援要請。


どれも簡単には答えを出せないものばかりだった。


「元同胞は助けたい……でも……」


自分でも、この状況がどれほど危険なのかは分かっていた。

私の匙加減一つで、共和国の未来が大きく変わる。


「まずは……法解釈か」


共和国が表立って兵士を送り込めば、条約違反。武器を公然と供与しても同じだ。

それを口実に、再び共和国へ攻め込まれる可能性もある。


「それだけは避けなければ」


ベレは資料を閉じた。


「じゃあ……要請を断る?」


その言葉を口にした瞬間、自分で首を横に振る。


「違う……それじゃ元同胞を見捨てることになる」


再び静寂が訪れる。


トントン。トントントン。


机を叩く音だけが続いた。


「武器弾薬なら……恐らく密輸という形なら、表には出ない」


前世でも制裁を受けながら武器や物資が裏から運び込まれていた国は少なくなかった。

完全に止めることなど、ほぼ不可能だった。


「向こうも、それを考えているのね」


恐らく市民による武装蜂起。

現政府を倒すための戦い。


「そんな簡単に出来る?」


ベレは苦笑する。


「いや……武器なんて、教えれば少年や少女でも扱えてしまう。下手をすれば、自爆攻撃だって……」


そこまで考えた瞬間。

ベレは強く首を振った。


「そんなのは絶対駄目!」


思わず机を叩く。


「何で私が……戦争を避けるために、この国を作ってきたのに……」


その日は、答えが出なかった。


翌日。


それでも答えは出ない。


さらに翌日。


夜が明けても、ベレは執務室で資料を読み続けていた。


そして三日後。定例会議。


ラインは執務室へ入るなり、ベレの顔を見て目を丸くした。


「総統……目にクマが酷いですが、大丈夫でしょうか?」


ベレは小さく笑う。


「大丈夫……よ」


そう答えたものの。本当は、大丈夫ではなかった。国を造ることは楽しかった。


工場を造り。道路を造り。学校を造り。


人々が笑顔になっていく。

その姿を見ることが、何より嬉しかった。

現に共和国は少しずつ豊かになり、結果も出始めている。


それなのに、今、自分が決めようとしているのは戦うための支援だった。


戦争。


そこまで大きなものではないのかもしれない。

それでも、人と人が武器を手に取る戦いになることだけは間違いない。


その決断を自分が下さなければならない。


ベレはゆっくりと顔を上げた。


「ラインさん」


「はい」


「トリアの代表を呼んで」


ラインはベレの表情を見て、小さく頷いた。


「承知しました」


数時間後の総統官邸、応接室。


トリア代表団が席に着く。

ベレは静かに口を開いた。


「共和国として結論を出しました」


代表団は息を呑む。


「我が国は、武器弾薬、医薬品、そして食料を供給します」


代表団の表情が一気に明るくなる。


「ありがとうございます、総統閣下!」


ベレは首を横に振った。


「ですが。表立って行うことはできません。全て密輸という形になります。共和国政府は公式には関与しません」


代表団は力強く頷く。


「それでも構いません。それだけでも十分です」


ベレは少しだけ間を置いた。

そして、もう一つの決断を告げる。


「それと義勇軍という形で、我が国の軍事訓練を受けた者たちを、数百名規模で送り込みます」


代表団は驚きのあまり立ち上がった。


「本当ですか……!」


「ありがとうございます!」


「本当にありがとうございます!」


ベレは静かに頷いた。


「ただ、一つだけ約束してください」


代表団は表情を引き締める。


「共和国は、罪のない市民を守るために支援します。復讐のためではありません。子どもや老人、武器を持たない人々を巻き込むような戦いは、絶対に認めません」


代表団は深く頭を下げた。


「お約束します」


応接室を後にした代表団を見送りながら、ベレは静かに目を閉じた。


これが正しい答えなのか。

それは、まだ分からない。

それでも元同胞を見捨てることも。

共和国を戦争へ巻き込むことも。


そのどちらも避けるために、私が選んだ苦渋の決断だった。

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