発展の代償
総統官邸。午前の定例会議。
内務大臣が一枚の報告書を差し出した。
「総統。自動車の普及に伴い、新たな問題が発生しております」
ベレは資料を受け取る。
「問題?」
「はい。交通事故が増えています」
ベレは報告書へ目を落とした。
交差点での接触事故。歩行者との接触。
速度の出し過ぎによる横転事故。
自動車が増えたことで、今までなかった問題が次々と起き始めていた。
「うーむ……確かにそうよね」
ベレは小さくため息をつく。
「完全に後手に回ってしまったわ」
会議室は静まり返る。
ベレはすぐに顔を上げる。
「なら、今から整備しましょう」
担当者たちが一斉にメモを取る。
「まず、横断歩道を整備します。信号機も設置しましょう。それと制限速度も決めます」
交通大臣が頷く。
「速度の基準があれば、事故も減るでしょう」
ベレはさらに続けた。
「それから運転免許制度。誰でも自由に運転するんじゃなくて、きちんと交通ルールを学んでから運転してもらいます」
交通大臣が驚く。
「試験を行うのですか?」
「ええ。運転できる技術だけじゃなく、安全に運転できる知識も必要よ」
会議室の全員が頷いた。
ベレは静かに呟く。
「車を作るだけじゃ駄目。ルールも作らないと」
その時、今度は通信大臣が手を挙げた。
「総統。こちらも、ご報告があります」
「何かしら?」
「電話です」
ベレは思わず苦笑する。
「今度は電話?」
通信大臣も苦笑いを浮かべた。
「電話が急速に普及しております。しかし……回線が足りません。交換手も不足しております」
ベレは思わず机へ突っ伏した。
「こっちもかぁ……」
通信大臣は資料を広げる。
「都市部では電話の申し込みが急増しております。交換局の処理能力を超え始めています。地方との通話も待ち時間が長くなっています」
ベレは苦笑しながら頷いた。
「これも後手に回ってしまったわね……」
少し考えた後、顔を上げる。
「全国へ電話交換局を整備します。それと都市間電話網も強化しましょう。交換手の養成学校も必要ね」
通信大臣は嬉しそうに頷いた。
「承知しました」
会議が終わり、ベレは一人、窓の外を眺める。
「車も電話も色々な物が急速に普及してきて、追い付かなくなってるわ」
ラインが隣へ立つ。
「それだけ共和国が発展している証拠でもあります」
ベレは苦笑した。
「そうね。でも、この辺りは私の反省点。新しい物を作ることばかり考えて、その後の仕組み作りが少し遅れちゃった」
ラインは静かに微笑む。
「ですが、総統は問題が見つかれば、すぐに改善されています。だから共和国は成長しているのだと思います」
ベレは頷いた。
「ありがとう。失敗じゃないわ。次に活かせばいいもの」
そして机の上の手帳へ、一行だけ書き加えた。
『新しい物を作る時は、運用する仕組みも同時に考えること』
ベレはその一文を見つめ、小さく笑った。
「これも、大切な勉強ね」
共和国は発展を続けている。
だからこそ、新しい時代には、新しいルールと仕組みも必要になっていくのだった。




