シア国、次の一手
総統官邸。
午前の定例会議。
ヘルムが情報省から届いた報告書を手に立ち上がった。
「総統。シア国について、新たな動きが確認されました」
ベレは顔を上げる。
「何かしら?」
「先日の共和国への抗議後、シア国政府は新たな方針を発表しました」
ヘルムは報告書を読み上げる。
「『共和国の支援がなくとも、自国だけで研究を続ける』と宣言。さらに、接収した研究所へ国家予算を投入し、軍事・工業研究を国家主導で進める方針です」
会議室が静まり返る。
ベレは静かに目を閉じた。
「……やっぱり、国家主導で進めるのね」
ラインが不思議そうに尋ねる。
「総統?」
ベレはハッと我に返る。
「あっ、ごめんなさい。少し考え事をしていただけよ」
「そうでしたか」
ラインはそれ以上聞かなかった。
会議はそのまま進み、シア国への対応は引き続き情報収集を優先することが決定された。
会議が終わり、一人になったベレは執務室の椅子へ深く腰掛ける。
やっぱり似ている……
私がいた世界と国の名前も違う。人物も違う。
それでも、大きな流れだけはどこか重なって見える。
「確か、この辺りから……」
ベレは机に肘をつき、記憶を辿る。
「五カ年計画……だったかしら?」
「うーん……思い出せない……」
歴史の授業で聞いた程度の知識。
細かな年代も。政策の順番も。
ほとんど覚えていない。
それでも、断片的な記憶だけは頭の片隅に残っていた。
「もし、同じような方向へ進むなら……私たちから仕掛けて、戦争になるはず……」
ベレは首を傾げる。
「……あれ?その前に、ランス国へ私たちから攻め込むんだったかしら?」
しばらく考える。だが、答えは出ない。
「駄目ね……やっぱり思い出せない」
ベレは小さくため息をついた。
「私の記憶は曖昧。だから、その記憶だけを信じるつもりはない」
静かな執務室で、一人呟く。
「でも、一つだけ言えることがある」
ベレは窓の外へ目を向けた。
「私から戦争を始めなければ歴史は、大きく変わるはず」
未来は決まっていない。
歴史は繰り返すかもしれない。
だが、それを変えるために、自分はこの世界へ来た。
「私は未来に振り回されるんじゃない。未来を変えるために、この国を作っているんだから」
ベレはそう呟くと、再び机の上の書類へ手を伸ばした。
シア国は、新たな道を歩み始めた。
共和国もまた、自ら信じる未来へ向かって歩み続けるのだった。




