判明した発砲事件
総統官邸。
午前の定例会議。
ヘルムが一冊の報告書を手に立ち上がった。
「総統。先日、ルー地方で発生した発砲事件について、新たな情報が判明しました」
ベレはすぐに顔を上げる。
「原因が分かったの?」
「はい」
会議室の空気が引き締まる。
ヘルムは報告書を開いた。
「情報省の調査によりますと、発砲音の正体はランス国軍による大規模演習でした」
「演習?」
「はい」
「本気線と呼ばれる国境防衛線の建設現場付近で、実弾射撃を伴う演習を実施していたようです」
ベレは思わず立ち上がる。
「演習だったの!?」
会議室には安堵の空気が流れる。
少なくとも、共和国へ攻撃を仕掛けた訳ではなかった。
ベレも胸をなで下ろした。
「良かった……戦争じゃなかったのね」
しかし次の瞬間、表情が一変する。
「……いや!ちょっと待って」
ベレはヘルムを見る。
「国境付近で?」
「はい」
「実弾演習?」
「はい」
「共和国へ事前通告なし?」
「ありませんでした」
ベレは机を軽く叩いた。
「いやいや!国境で事前通告なしの大規模射撃って、普通に駄目でしょ!」
会議室の何人かが思わず苦笑する。
国防大臣も頷いた。
「その通りです。誤解を招く行為だったことは間違いありません」
ラインが尋ねる。
「ランス国は何と説明しているのですか?」
ヘルムは別の書類を開く。
「ランス国外務省は、共和国からの問い合わせに対し――」
『自国領内で行う演習について、共和国へ事前に知らせる必要はない』
「……との回答でした」
会議室が静まり返る。
ベレは呆れたように天井を見上げる。
「強気ねぇ……これじゃ、こっちが警戒するのも当然でしょう」
国防大臣も苦い表情を浮かべる。
「実際、共和国軍も一時的に防衛態勢へ移行しております。もし誤認していたら、大きな問題になっていました」
ベレは大きくため息をついた。
「全く……迷惑な話よ!戦争じゃなかったのは良かった。でも、あんなことをされたら、誰だって攻撃されたと思うじゃない」
ラインも頷く。
「今後も警戒は必要ですね」
「ええ」
ベレは静かに頷いた。
「こちらから挑発するつもりはない。でも、こんなことを繰り返されるなら、防衛体制は維持しないといけないわね」
そして、小さく呟く。
「全く!迷惑な!余り私達を舐めないでよ!」
その言葉には怒りだけではなく、共和国を守るという強い決意が込められていた。
発砲事件の真相は判明した。
戦争ではなかった。
しかし、ランス国の強硬な姿勢は変わらない。
共和国とランス国。
両国の距離は、少しずつ、しかし確実に離れていくのだった。




