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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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降伏の日

朝早く。教会の鐘が鳴り響いた。


一度。二度。三度。


町中へ響き渡る鐘の音。

私は屋敷の窓から外を眺める。


「今日は何かあるの?」


侍女は静かに頷いた。


「停戦命令が各地へ伝えられたそうです」


私は目を閉じる。

とうとう来た。新聞で知った帝国の終焉。

それが今、ようやく各地へ届き始めたのだ。


昼頃。


私は侍女に付き添われ、領都へ向かった。

町は静かだった。戦争が終わった。

そう聞けば、人々は喜ぶと思っていた。


しかし現実は違う。


笑顔はない。歓声もない。


人々は互いに顔を見合わせ、小さな声で話している。


「本当に終わったのか……」


「これからどうなる?」


「仕事は?」


そんな言葉ばかりが耳に入る。

駅の近くでは、一団の兵士達が列車から降りてきた。


疲れ切った表情。泥だらけの軍服。肩には銃。


だが、その足取りは重い。

誰も凱旋兵のようには見えなかった。

歓迎する人も少ない。

家族と抱き合う者もいる。


しかし。


迎えに来る人のいない兵士も多かった。

彼らは荷物を抱えたまま立ち尽くしている。


「帰ってきても……仕事はないか」


誰かがそう呟く。別の兵士が苦笑した。


「軍も終わりだ」


その笑い声は乾いていた。


私は静かにその光景を見つめる。


前世でも見た。停戦。終戦。講和。

だがそこで全てが終わるわけではない。

むしろ混乱はそこから始まる。


軍は縮小される。兵士は職を失う。

工場は軍需を失う。物流は混乱する。

物価は不安定になる。そして、政治も揺れる。


私は小さく呟いた。


「戦争が終わることと、平和になることは違う……」


屋敷へ戻ると、私は真っ直ぐリーブの部屋へ向かった。


「お母様、お時間をいただけますか」


母は少し驚いたようだったが、頷いて椅子を勧めた。


「どうしたの?」


私は一度深呼吸する。


「臨時政府が樹立されました」


「ええ」


「ですが、新しい政府が帝国全土をどこまで統制できているのかは分かりません」


母は黙って聞いている。

私は続けた。


「停戦はしました。でも、物流も金融も行政も混乱する可能性があります」


「……」


「もし貨幣の価値が下がれば、お金があっても食料を買えなくなります」


母の表情が少し変わる。


「だからお願いがあります」


私は真っ直ぐ母を見つめた。


「屋敷にある現金の一部で構いません。食料を確保してください。それと、種子、肥料、農具も」


母は目を丸くした。


「そんなに?」


「はい」


私は頷く。


「食料は必ず消費します。でも種や農具は、来年の収穫を支えます。混乱が長引けば、今あるお金よりも、作れる力の方が価値を持ちます」


部屋は静まり返った。

母はすぐには答えない。

娘の口から出る話とは思えなかったのだろう。

やがて、小さく尋ねる。


「どうして、そこまで分かるの?」


私は少しだけ視線を落とした。

本当の理由は言えない。

前世で、紛争後の国々を何度も見てきたから。

だから私は静かに答えた。


「新聞を読んで、町を見て、考えました」


母は私をじっと見つめる。

そして、ゆっくりと頷いた。


「お父様が戻ったら相談するつもりだったけれど……」


少し考え込み、続ける。


「いいでしょう。執事とも相談して、できる限り手配してみます」


私はほっと息をついた。

すべてが当たるとは限らない。

だが、備えは無駄にならない。

窓の外では、教会の鐘がまだ静かに鳴り続けていた。


その鐘は戦争の終わりを告げている。


しかし私には、それが新たな時代の始まりを告げる鐘にも聞こえていた。

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