作る前から大仕事
共和国。
一号戦車の国内生産へ向けて、軍関係者とシア国から帰国した技術者たちは、国内の工場を次々と視察していた。
最初に訪れたのは、大型機械を製造する工場。
技術者は工場内の設備を確認しながら頷く。
「ここなら、戦車の車体は作れます」
軍関係者の表情が明るくなる。
「では、この工場で生産できますか?」
「いえ」
「……いえ?」
工場の技術者は首を横に振った。
「車体だけです」
「砲は?」
「別の工場です」
「エンジンは?」
「自動車会社へ依頼する必要があります」
「無線機は?」
「通信機器を作っている会社です」
「履帯は?」
「それも別の工場が良いでしょう」
軍関係者たちは顔を見合わせた。
「……戦車一台作るだけですよね?」
工場の技術者は苦笑する。
「戦車は、鉄の箱ではありませんから」
車体。装甲板。砲。エンジン。変速機。
履帯。無線機。照準器。
様々な部品が必要になる。
一つの工場だけでは、とても作れない。
数日後。総統官邸。
視察結果の報告を受けたベレは、机の上に並べられた資料を眺めていた。
「この工場で車体」
「はい」
「こっちで砲」
「はい」
「エンジンは自動車会社」
「はい」
「無線機は通信機器会社」
「はい」
ベレは腕を組む。
「……確かに。車を作る時もそうだったわね。一つの会社だけじゃなくて、何社も必要だった」
さらに資料をめくる。まだある。
「履帯、照準器、装甲板、変速機……」
ベレは顔を上げた。
「戦車一台作るのに、何社必要なの?」
軍関係者は少し困った表情を浮かべる。
「正確には、まだ分かりません。これから協力企業を選定します」
ベレは頭を抱えた。
「戦車って……作る前から大仕事なのね……」
技術者が頷く。
「ですが、共和国の工業力なら可能です。これまで育ててきた製鉄所。工作機械工場。自動車産業。通信機器産業。それらが、ようやく一つにつながろうとしています」
ベレは少し驚く。
「今まで作ってきたものが?」
「はい。どれか一つでも欠けていれば、国内生産は難しかったでしょう」
ベレはしばらく資料を見つめた。
製鉄所。自動車工場。研究所。通信網。
工作機械。
今まで一つずつ作ってきたもの。
その全てが、戦車という一つの機械を作るためにも必要だった。
「……国の工業力って、こういうことなのね」
ベレは静かに頷く。
「分かりました。工場と協力企業の選定を進めてください。ただし、焦らないで。最初から大量生産は考えなくていいわ。まずは共和国国内で一台作れる体制を整えましょう」
「はっ!」
午前の報告が終わる。
ベレは椅子へ深く座り込んだ。
「ふぅ〜……戦車一台作るだけで、こんなに大変なのね」
ラインが新しい資料を机へ置く。
「総統。午後はこちらです」
ベレは嫌そうな顔をする。
「……今度は何?」
「航空機です」
「今度はこっちか……」
午後。総統官邸の会議室。
空軍関係者。航空技術者。
そして軍の専門家たちが集まっていた。
以前、航空機開発を依頼した数十社から、最初の設計案が届き始めていた。
担当者が報告する。
「まず、戦闘機です」
「八案届いております」
ベレは目を見開く。
「八つ!?」
「はい」
「直接支援機が五案」
「爆撃機が四案です」
ベレは固まる。
「全部で……十七案です」
「……」
しばらく沈黙した後。
ベレは叫んだ。
「全部作るお金なんてないわよ!」
会議室にいた者たちが思わず苦笑する。
「もちろんです。今後、設計案を審査し、試作する機体を絞り込みます」
ベレはすぐに手を振った。
「任せます!軍と専門家の皆さんで決めてください!私は飛行機の細かいことなんて分かりません!」
空軍関係者が尋ねる。
「総統から、何か条件はありますか?」
ベレは少し考える。
「うーん……」
そして答えた。
「飛ぶこと」
「……はい?」
「ちゃんと飛ぶこと」
会議室が静まり返る。
ベレは真剣だった。
「それと、現場の人が使いやすいこと。整備しやすいこと。壊れても直しやすいこと。そのくらいかしら?」
一人の技術者が小さく笑う。
「十分です」
ベレは安心したように頷いた。
「なら、後は専門家に任せます」
こうして。
地上では、一号戦車を作るための工場選定が始まり。
空では、新しい共和国空軍の翼を選ぶ審査が始まった。
しかしどちらも、完成はまだ先。
共和国は焦らず。一つずつ。
自分たちの手で作る準備を進めていた。




