共和国初の高速道路
総統官邸。定例会議。
交通大臣が嬉しそうな表情で、一枚の報告書を差し出した。
「総統。以前より建設を進めていた第一号高速道路が、ついに完成しました!」
ベレは顔を上げる。
「おおー!やっと完成したのね!」
交通大臣は大きな地図を会議机へ広げた。
共和国全土の地図。
その上には、一本の太い線が引かれている。
「首都、主要工業地帯、港、そして主要都市、これらを結ぶ、共和国初の高速道路です」
ベレは地図を覗き込む。
「良いじゃない!これなら工場で作った物を港まで運べる。港から届いた物資も、すぐに工業地帯へ運べるわね」
「はい」
交通大臣は頷いた。
「ですが……」
「何?」
交通大臣は少し言いにくそうな表情を浮かべた。
「問題がございます」
ベレの笑顔が止まる。
「また?」
「はい……」
交通大臣は別の資料を広げた。
「現在、共和国国内を走る自動車の台数では、この高速道路の建設費に見合うほどの利用は見込めません」
「……」
ベレは資料を見る。
確かに共和国では自動車が増え始めている。
しかし、まだ国民の多くが車を持っている訳ではない。
物流の中心も鉄道だ。
「つまり?」
「現時点では、利用する車両が少なすぎます」
ベレは腕を組んだ。
「良いんです。今のために作ったんじゃありません」
交通大臣が顔を上げる。
「はい?」
「これから来る車社会のために作ったんです!」
ベレは地図を指差した。
「国産自動車は完成しました。今は量産工場も建設中。トラックも増える。バスだって増える。これから共和国を走る車は、どんどん増えます」
交通大臣は考え込む。
ベレはさらに続けた。
「それに、高速道路を使うのは民間の車だけじゃないわ。軍用トラックも走れます」
国防大臣が反応する。
「確かに、主要都市や港、工業地帯が道路で結ばれれば、部隊や物資の移動も容易になります」
「でしょう?」
ベレは今度は内務大臣を見る。
「災害が起きた時は?」
「救援物資を大量に運べます。救急車も消防車も、早く現地へ到着できます。鉄道が止まった場合は?」
交通大臣が答える。
「高速道路が代替輸送路になります」
ベレは満足そうに頷いた。
「そういうこと!」
「鉄道だけに頼るのは危険です」
「鉄道が止まっても、道路がある」
「道路が使えなくても、鉄道がある」
「複数の輸送手段を持つことが大切なんです」
ラインが小さく笑う。
「それにしても、今はまだ走る車が少ない高速道路ですか」
「いいのよ」
ベレは地図を見つめた。
「道路は、車が増えてから作るんじゃ遅いの」
今はまだ。
広い道路を走る車は少ない。
しかし、数年後。十年後。
この道には、多くの自動車やトラックが走っているかもしれない。
人を運び。
物を運び。
災害が起きれば、救援物資を運ぶ。
共和国初の高速道路。
それは、今のための道ではない。
共和国がこれから迎える、車社会のための道だった。




