動き始めた二つの計画
ラインの執務室。
机の上には、各省庁から届いた書類が積み上がっていた。
ラインは、その中に紛れ込んでいた一通の電報を手に取る。
一見すれば、何の変哲もない通常の電報。
しかしラインには分かった。
「……ヴィルからね」
二人だけが知る暗号。
ラインは電報を机へ置き、ゆっくりと解読していく。そして、短い文章が浮かび上がった。
『第一段階成功』
ラインの目が細くなり、さらに読み進める。
トリア国では、協調派の拠点が何者かによって襲撃された。人的被害は最小限。
しかし敵対派が協調派を攻撃した。
その噂は瞬く間に国内へ広がっていた。
新聞。酒場。工場。議会。
様々な場所で事件が語られている。
「とうとう敵対派は武力まで使い始めたのか!」
「協調派を黙らせるつもりだ!」
「こんなことが許されるのか!」
協調派には同情が集まり。
逆に、敵対派への反発が強くなっていった。
ラインは静かに電報を読み進める。
最後には、さらに短い一文。
『第二段階へ移行する』
ラインは眉をひそめた。
「第二段階……次は何をするつもり?」
少しだけ不安になる。
ヴィルは優秀だ。それは間違いない。
だが何をするのか、細かい内容までは報告されていない。
「……まあ、いいか。現場の判断に任せましょう」
ラインは電報を処分し、次の書類へ手を伸ばした。
トリア国では、共和国の知らないところで、大きな亀裂が少しずつ広がり始めていた。
一方。
共和国空軍創設準備本部。
元飛行士。元整備士。元教官。
かつて空軍に所属していた多くの人材が集まっていた。人はいる。組織も作った。
しかし大きな問題が一つあった。
総統官邸。
空軍創設準備責任者が、少し言いにくそうに口を開く。
「総統」
「はい?」
「空軍創設について、一つ問題があります」
ベレの表情が引き締まる。
「何かしら?」
「飛行機がありません」
「……」
ベレは固まった。
「……そうだった」
ラインが苦笑する。
「現在、共和国が保有しているのは、カース社の輸送機が中心です」
「戦闘機も直接支援機も爆撃機も現在開発中です」
ベレは頭を抱える。
「人を集めれば空軍ができると思ってた……」
空軍創設準備責任者は、さらに続ける。
「もう一つ問題がございます」
「まだあるの?」
「復帰した元飛行士の多くが、高齢です。経験は豊富ですが、将来を考えれば若い飛行士を育てる必要があります」
ベレはすぐに頷いた。
「それはそうね。なら、新人飛行士を募集しましょう。民間航空学校に軍用課程を作ります。飛行技術の基礎は、今ある輸送機や練習機で学べるでしょう?」
「可能です」
「なら、すぐに始めましょう」
ベレは次々と指示を出す。
「それから、整備士学校も作ってください。飛行機があっても、直せる人がいなければ飛べないもの」
「各地域に空軍基地も必要ね。滑走路、格納庫、燃料施設、通信設備」
「……」
ベレの声が少しずつ小さくなる。
必要なものが、どんどん増えていく。
「空軍って……飛行機を作るだけじゃないのね……」
空軍創設準備責任者が苦笑する。
「はい。飛行機を飛ばすためには、多くの人員と施設が必要です」
ベレは大きく息を吐いた。
「はぁ〜また、お金が飛んでいく……」
ラインが笑う。
「飛行機だけに、ですか?」
ベレはラインを見る。
「……」
ラインもベレを見る。
「……」
ベレは再び資料へ目を落とした。
「新人飛行士募集、航空学校に軍用課程、整備士学校、空軍基地の建設」
そして、最後に大きく書き込む。
『焦らず、一歩ずつ』
共和国空軍には、まだ戦うための翼はない。
しかし人を育て、施設を作り、飛行機を待つ。
共和国は今、空を守るための土台を、一つずつ作り始めていた。




