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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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大きな流れ

数日後。共和国。

シア国から帰国した技術者たちが、ようやく首都へ到着した。


彼らと共に持ち帰られたのは、大量の木箱。

その中には、一号戦車の設計図。


試験走行記録。装甲試験の結果。

エンジンの研究資料。


そして、まだ基礎研究段階だった二号型の資料まで入っていた。


総統官邸。

技術者から報告を受けたベレは、大きく息を吐いた。


「皆さん、無事で良かったです」


共和国側の責任者が頭を下げる。


「ありがとうございます。それと、総統。一号戦車に関する資料は、ほぼ全て持ち帰ることができました」


ベレは頷く。


「なら、直ちに国内生産の準備へ入ってください」


技術者が驚く。


「直ちに、ですか?」


「はい」


「今まで国内で作れなかったのは、条約があったからです。でも、もう状況が変わりました」


ベレは資料へ目を落とす。


「工場を選定して、必要な設備を整えて。まずは少数から生産を始めましょう」


「承知しました!」


技術者たちが退室した後。

ベレは一号戦車の資料を見つめる。


「戦車を作るのはいいけど……これだけじゃ駄目よね」


ラインが首を傾げる。


「と、言いますと?」


「戦車を支える車両、弾薬を運ぶ車両、燃料を運ぶ車両、壊れた戦車を直す車両、それに……支援戦車?」


ベレは自分で言いながら首を傾げた。


「そんな名前だったかしら?」


ラインは苦笑する。


「私に聞かれましても……」


「そうよね」


ベレは頭を抱える。


「そもそも、その前に、戦車を操作する人が必要じゃない!指揮する人も!整備する人も!補給する人も!」


考えれば考えるほど、必要なものが増えていく。


ベレは机へ突っ伏した。


「無理!細かいところまで、私には分からない!」


ラインが苦笑する。


「では、どうされますか?」


ベレは顔を上げた。


「軍に丸投げします!」


「……丸投げ、ですか?」


「だって専門家でしょう!戦車をどう運用するのか?何台必要なのか?どんな支援車両が必要なのか?誰を育てるのか?全部、軍に考えてもらいます!」


ラインは少し笑いながら頷いた。


「それが一番よろしいかもしれませんね」


「でしょう?私が変な知識で口を出すより、専門家に任せた方が絶対にいいもの」


その日の夜。

ベレは一人、執務室に残っていた。

机の上には、一冊のノート。


前世の記憶。


思い出せることを、片っ端から書き込んだノートだった。


年号。国の動き。戦争。経済。技術。


曖昧なものには、大きな疑問符が付いている。

ベレはページをめくる。


「やっぱり……ズレてる」


まだ起きていない出来事。

逆に、記憶より早く起きている出来事。

そして、時期は違っても、よく似た形で起きている出来事。


「でも……早く起きていることは、私の知ってる歴史と大きな流れは合ってるのよね」


問題は、自分の記憶だった。

そもそも歴史の専門家ではない。

細かな年号も。なぜ戦争が始まったのかも。

誰と誰が何を約束したのかも。


かなり怪しい。


「私の記憶も、信用できないのよね……」


ベレは椅子へ深く座り込む。


細かい出来事を一つずつ当てようとするから、分からなくなる。


なら――。


「細かいところを見極めるんじゃなくて、大きな流れを見る?」


国家の変化。軍備の拡張。経済の悪化。

国同士の対立。同盟関係。


そうした大きな流れを見て、危険が近づいているなら、その前に手を打つ。


「それなら……私の曖昧な記憶でも、使えるかもしれない」


未来を正確に当てる必要はない。

同じ歴史になるとも限らない。


でも大きな流れが似ているなら。


それより先に動けばいい。

ベレはノートを閉じた。


「未来を当てるんじゃない。危なくなる前に、備える。それでいいのかもしれないわね」


「ふぅ〜……」


ベレは椅子へ身体を預けた。

前世の記憶は、未来を教えてくれる答えではない。


ただの、曖昧な地図。

だからこそ、その地図だけを信じるのではなく。今、この世界で起きていることを見ながら進むしかない。


ベレは、ようやく自分なりの答えを見つけ始めていた。

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