似ている歴史
総統執務室。
ラインが一通の電報を手に、部屋へ入ってきた。
「総統。シア国へ派遣している技術者から、緊急の電報です」
ベレは顔を上げる。
「何かあったの?」
「はい」
ラインは電報へ目を落とした。
「シア国の指導者が変わったとのことです」
「指導者が?」
「はい。名前は――」
ラインは一度、電報を確認する。
「シフ・タリン」
ベレの動きが止まった。
「……シフ・タリン?」
「はい」
ベレは思わず聞き返す。
「どんな人物か分かる?」
ラインは首を横に振った。
「いえ。現在、外務省経由で詳しい情報を問い合わせていますが、まだ何とも……」
「そう……」
ベレは指先で机をトントンと叩く。
シフ・タリン。
その名前。そして、この時代。
やはり、似ている。
この世界は、私がいた世界の過去に。
国の名前も違う。人物の名前も少し違う。
でも、歴史の流れも、雰囲気も、どこか似ている。
もっとも、私の記憶はかなり曖昧だ。
歴史の授業で習った程度。
しかも何十年も前の記憶。
「あー……こんなことになるなら、歴史をもっと真面目に勉強しておけばよかった……」
ラインが首を傾げる。
「総統?」
「何でもないわ」
ベレは椅子へ深く座り直す。
でも――。
あの、ちょび髭はいない。
少なくとも、今のところは。
なら、私のいた世界と全く同じ歴史にはならないはず。
第二の大戦だって、起こらないかもしれない。
いや。起こさせない。
勿論、私から仕掛けるつもりなんてない。
この世界の歴史は、変えられるはず。
でも……もしシア国まで、私の知る歴史と似た道を進むのなら?
国家による強い統制。経済への介入。
そして――ベレは考えるのを止めた。
まだ何も分からない。
名前が似ているだけで決め付けるのは危険だ。
でも。共和国の技術者が、シア国にいる。
戦車の研究も進めている。
万が一を考えれば――。
「ラインさん」
「はい」
「シア国へ派遣している技術者を、全員共和国へ戻してください」
ラインが少し驚く。
「全員ですか?」
「ええ。それと、シア国への技術支援を一時中断します」
「そうですか……」
ラインは少し考えた後、頷いた。
「分かりました。直ちに帰国命令を出します」
ベレは付け加える。
「シア国との関係を切る訳ではないわ。新しい指導者がどんな人物なのか?どんな政策を行うのか?それが分かるまで、一度止めるだけ」
「承知しました」
ラインが部屋を出ていく。
一人になったベレは、もう一度その名前を呟いた。
「シフ・タリン……」
似ている。あまりにも。ベレは窓の外を見つめる。
「お願いだから……歴史まで、同じにならないでよね」
共和国は、初めてシア国に対して慎重な距離を取り始めた。




