決断の時
緊急記者会見を終えたベレは、そのまま執務室へ戻った。
部屋には重い沈黙が流れていた。
机の上には、一枚の書類。
それは、前政権が先の戦争後に制定した軍人追放令に関する資料だった。
ベレは静かに書類へ目を通す。
「……今まで保留にしてきたけれど」
ラインも神妙な表情で頷く。
「はい。敗戦後、多くの士官級以上の将校が軍を追われました。現在も復帰できない状態が続いております」
ベレはペンを手に取る。
「今までは、できる限り譲歩してきた。軍縮も受け入れた。条約も守ってきた。それでも挑発は止まらない……」
小さく息を吐く。
「私はかなり譲歩していたのに。それとも、共和国は舐められているから強気な行動を取られるのかしら……私が、まだまだ甘かった?」
ラインは静かに答えた。
「総統。平和を望むことは、甘さではありません。ですが、平和を守る力は必要です」
ベレはゆっくりと頷く。
「そうね。なら、決めましょう」
そう言うと、書類へ静かに署名した。
これにより、前政権が行っていた軍人追放令は正式に廃止される。
士官級以上の将校たちは、審査を経て共和国軍へ復帰できることとなった。
ベレは新しい書類を手に取る。
「ラインさん」
「一号戦車の生産を開始します」
ラインはすぐに返事をする。
「はっ!」
ベレは続けた。
「それと……空軍の再建を行うわよ」
ラインの表情が引き締まる。
「正式に空軍を創設されるのですね」
「ええ」
「飛行機は人を運び、命を救うためにも必要。でも、国を守るためにも必要になってしまった」
ラインは敬礼する。
「直ちに準備へ入ります」
執務室の窓から冬の空を見上げながら、ベレは静かに呟いた。
「私は今でも戦争は嫌い。でも、国民を守るためなら守る力からは、もう目を背けない」
ベレは新たな書類を手に取った。
「それと、もう一つ」
ラインが顔を上げる。
「何でしょう?」
「カース社と連絡を取ってください。それから、昔、飛行機を製造していた会社にも」
ラインはすぐにメモを取る。
「航空機メーカーですね」
「はい。今後の航空機開発について、一度じっくり話をしたいの」
「旅客機だけではありません」
「輸送機」
「偵察機」
「そして、共和国空軍の将来も見据えた航空技術全体についてです」
ラインは頷く。
「承知しました。各社へ正式に招待状を送ります」
ベレは窓の外を見つめながら静かに呟く。
「空は、これからの時代を左右するわ」
「共和国の航空技術を、もう一段階先へ進めましょう」
その日のうちに、カース社と、かつて航空機開発に携わっていた各企業へ極秘の招集通知が送られた。
共和国の空は、新たな時代へ向けて、静かに動き始めようとしていた。




