未来への一歩
総統官邸。朝の執務室。
ラインが嬉しそうな表情で報告書を差し出した。
「総統。中央科学技術研究所から報告です」
ベレは資料を受け取り、目を通す。
次の瞬間、表情が明るくなった。
「本当?」
「はい。リード・ベル主任からです」
数時間後。
共和国中央科学技術研究所。
研究員たちが緊張した面持ちでベレを迎えた。
リード・ベルが小さな容器を机の上へ置く。
中には透明に近い液体が入っている。
「総統。完成ではありません。ですが……石炭から少量の燃料生成に成功しました」
研究室が静まり返る。
ベレは容器を手に取り、ゆっくり眺める。
「これが……人造石油」
リードは頷いた。
「まだ量はごくわずかです。品質も安定していません。大量生産には、まだ多くの課題があります」
しばらく沈黙が流れる。
そして、一人の若い研究員が拍手を始めた。
パチ……
その拍手は次第に研究所全体へ広がっていく。
研究員たちは笑顔で互いを称え合った。
ベレも微笑みながら拍手を送る。
「皆さん!おめでとうございます!これは大きな一歩です!」
若い研究員が申し訳なさそうに言う。
「まだ成功とは言えません」
ベレは首を横に振る。
「いいえ!成功です!失敗を重ねたから、この一滴にたどり着けたんです!研究とは、そういうものです」
リードも静かに頷いた。
ベレは研究員全員を見渡した。
「焦る必要はありません!少しずつ少しずつ、大量生産を目指して進みましょう」
研究員たちは力強く返事をした。
「はい!」
その頃――。シア国。
極秘共同研究所。
共和国とシア国の技術者たちが、大きな設計図を囲んでいた。
主任技師が口を開く。
「まずは軽戦車から始めましょう。最初から大型車両を目指すのは無理があります」
全員が頷く。
設計図は極秘に共和国へ送られた。
総統官邸。
ベレは送られてきた設計図を静かに眺める。
履帯。砲塔。装甲。
細かな寸法まで描き込まれている。
「なるほど……」
「最初から大きなものは難しそうね」
ラインが尋ねる。
「何か修正を指示されますか?」
ベレはしばらく考えた後、紙に短く書いた。
『兵士が生き残る戦車にしてください。』
それだけだった。ラインは少し驚く。
「それだけですか?」
ベレは微笑む。
「強さは後からでも手に入ります。でも、命は失ったら戻りません。だから最初に考えるのは、兵士を守ること」
その一文は極秘電報としてシア国へ送られた。
主任技師はそれを読み、静かに頷く。
「総統らしい注文だ。ならば、兵士が安心して乗れる戦車を作ろう」
研究は、静かに、しかし確実に前へ進み始めていた。




