命をつなぐ軍隊
共和国陸軍基地。
ベレは国防大臣、ヘルム、ラインとともに、新設された軍医部隊を視察していた。
医療用テント。救護用品。担架。
次々と運び込まれている。
軍医隊長が敬礼する。
「総統。軍医部隊の編成が完了しました」
ベレは静かに頷く。
「ありがとうございます」
野戦病院予定地を歩きながら、ベレは口を開く。
「戦争で一番大事なのは、撃つ人ではありません」
全員が足を止める。
「助ける人です」
軍医たちは静かに耳を傾ける。
「兵士が負傷した時。その場で適切な処置ができるか?病院へ運べるか?それだけで助かる命は大きく変わります」
軍医隊長は力強く頷いた。
「そのための軍医部隊です」
ベレは地図を広げる。
「まず野戦病院を整備します。前線近くでも治療ができるようにしましょう。さらにトラックを改造した救急車を配備します。負傷者を一刻も早く搬送できるようにしてください」
担当技師が敬礼する。
「直ちに設計へ入ります」
ベレは続ける。
「衛生兵も育成します。前線で応急処置ができる兵士を増やしましょう」
医療大臣が資料を開く。
「輸血についても研究を始めます。まだ課題は多いですが、将来必ず役に立ちます」
ベレは笑顔になる。
「お願いします。一人でも多くの命を救えるように」
ヘルムは静かに呟いた。
「普通なら武器を増やすことばかり考える……総統は違う。まず命を守る方法から考えている」
ベレは穏やかに答える。
「兵士は国の財産です。だから生きて帰ってもらいます」
その日の午後。
今度は通信隊の演習場へ向かった。
担当技術者が小さな箱を机へ置く。
「総統。小型軍用無線機が完成しました」
ベレは手に取る。
「思ったより小さいわね。携帯できる大きさを目指しました」
通信兵が二台の無線機を持ち、離れた場所へ移動する。
「通信開始!」
しばらくすると、小さなスピーカーから声が聞こえた。
『こちら第一中隊』
『聞こえるか?』
別の無線機から返答が返る。
『こちら司令部』
『明瞭に聞こえる』
ベレは思わず笑顔になる。
「すごい……馬を走らせなくても、その場で伝わる」
通信隊員たちも嬉しそうに頷く。
ヘルムは無線機を見つめたまま、小さく呟いた。
「戦争が変わる……」
これまで何時間も掛かっていた命令伝達が、ほんの数秒で届く。
それは戦場の姿そのものを変える技術だった。
ベレは無線機をそっと机へ置く。
「兵士を守るのは武器だけじゃありません」
「医療も通信も全部、人の命を守るための力なんです」
共和国軍は今日もまた、強くなるためではなく、一人でも多くの兵士が家族のもとへ帰れる軍隊を目指し、新たな一歩を踏み出していた。




