トリア国の夜
深夜。トリア国首都。
人気のない路地裏を、一人の男が静かに歩いていた。
ヴィルである。
帽子を深く被り、人目を避けながら目的の建物へ向かう。
古びた倉庫。扉を三回、一定の間隔で叩く。
内側から小さな声が聞こえた。
「合言葉は?」
ヴィルは静かに答える。
「夜明けは、必ず来る」
扉がゆっくり開く。
中には協調路線派の代表たちが待っていた。
代表はヴィルへ深く頭を下げる。
「遠いところを、ありがとうございます」
ヴィルも軽く一礼する。
「時間がありません。早速、本題へ入りましょう」
代表たちは円卓を囲む。
ヴィルは鞄を机の上へ置いた。
「これはライン様からです」
中には共和国紙幣が束になって入っていた。
代表たちは息を呑む。
「これほどの資金を……」
ヴィルは静かに頷く。
「活動資金です。ただし、使い道は慎重に、国民の支持を得るために使ってください」
代表は力強く頷いた。
「承知しました」
ヴィルはさらに一枚の地図を広げる。
「こちらは支援物資の受け渡し場所です。数日後、共和国から別ルートで荷が届きます」
代表が尋ねる。
「荷とは?」
ヴィルは声を潜めた。
「前回の戦いで鹵獲した装備です。共和国軍では使用しない分を整備し、お渡しします」
部屋の空気が変わる。
代表たちは顔を見合わせた。
「そこまで……」
ヴィルは真剣な表情で答える。
「共和国は約束を守る国です。ですが、決して共和国の名を表へ出してはいけません。すべて自己責任で行動してください」
代表は静かに立ち上がった。
「分かりました。我々も命を懸けます」
ヴィルも立ち上がり、固く握手を交わす。
「共和国は、皆さんが自分たちの力で未来を切り開くことを望んでいます」
「我々は、その後ろから支えるだけです」
会談が終わり、代表たちは倉庫を後にした。
一人の若い議員が、小さく呟く。
「まさか……共和国は、ここまで本気だったのか……」
その言葉に、誰も返事はしなかった。
だが、その場にいた全員が同じ思いを抱いていた。
静かな夜の倉庫で結ばれた約束は、やがてトリア国の未来を大きく動かす第一歩となろうとしていた。
その頃――。
シア国。
共和国との極秘協定に基づき、山間部では大規模な研究施設の建設が始まっていた。
表向きは「工業技術共同研究所」。
しかし、その実態を知る者は、ごく限られていた。
数日後。
共和国から技術者たちが次々と到着する。
機械技術者。冶金技術者。エンジン技術者。
それぞれが図面や測定機器を抱え、新設された研究棟へ入っていく。
施設長が静かに口を開いた。
「本日より、共和国・シア国共同開発計画を開始します」
会議室の中央には、一枚の大きな設計図が広げられた。
そこに書かれていた開発項目は三つ。
・戦車
・偵察車
・後方支援車
主任技師が説明を始める。
「共和国国内では条約上、研究が難しい分野です。そのため、本施設で基礎研究と試作開発を進めます」
シア国の技術者も真剣な表情で頷いた。
「我々も全力で協力します」
共和国の技術者が続ける。
「ただ強い兵器を作るのではありません」




