極秘任務始動
総統官邸。
外務省から届いた電報の山を、ラインは一枚ずつ確認していた。
外交報告。
貿易状況。
各国の新聞記事。
どれも普段どおりの内容だった。
その中に、一通だけ、ごく普通の文面の電報が混じっていた。
ラインはその紙を手に取る。
他人が見れば、何の変哲もない短い文章。
しかし、ラインの表情が僅かに変わる。
「……届いたか」
それはヴィルから送られた極秘電報だった。
万が一、第三者に傍受されても内容が分からないよう、二人だけで決めた暗号文。
ラインは暗号表を頭の中で照らし合わせる。
そこに記されていた本当の意味は――
『我、現地到着す。合流せり。行動を開始。』
ラインは静かに電報を折りたたむ。
「予定どおりだな」
ヴィルは既にトリア国内へ入り、協調路線派との接触に成功した。
これより極秘任務が始まる。
ラインは窓の外を見つめ、小さく呟いた。
「これが成功すれば……」
「トリアは共和国側へ傾く」
「そして共和国にとって初めて、本当の意味で信頼できる友好国になるかもしれない」
机の上には、トリア国の地図が広げられていた。
民族ごとの居住地域。
主要都市。
鉄道網。
すべて頭に入っている。
「急ぐ必要はない」
「だが、失敗も許されない」
ラインは極秘電報を金庫へしまい、鍵を掛けた。
「ヴィル……」
「頼んだぞ」
その頃。
遠く離れたトリア国。
一人の男が人混みの中を静かに歩いていた。
誰も、その男が共和国から派遣された極秘工作員だとは気付かない。
男は小さく帽子を深くかぶり直す。
「さて……始めるか」
共和国の未来を左右する、静かな外交戦が幕を開けようとしていた。




