世界に走る衝撃
ベレの緊急記者会見は、その日のうちに世界中へ打電された。
翌朝。
各国の新聞は、一斉に大きな見出しを掲げる。
『共和国、再軍備へ』
『戦後体制が転換か』
『ランス国防衛法案が引き金』
『共和国、一部条約破棄を示唆』
世界中のラジオ局も、この話題を繰り返し報道していた。
メリカ国では議会が緊急協議。
ギリス国でも外務省が対応を協議する。
本国でも、この問題が最優先議題となった。
しかし各国の見解は、共和国を一方的に非難するものではなかった。
「原因を作ったのはランス国ではないか?」
「先に軍備拡張へ動いたのはランス国だ」
「共和国は自衛を理由としている」
そんな慎重な意見が各国で相次いだ。
その頃、総統官邸。
ラインが新聞を抱えて執務室へ入る。
「総統。世界各国が、一斉に報じております」
ベレは新聞へ目を通し、小さく息を吐いた。
「そうね……これは大きな衝撃になるわ」
ラインは静かに尋ねる。
「このまま再軍備へ進めますか?」
ベレは首を横に振った。
「まだよ!私たちの目的は軍備を増やすことじゃない。戦争を防ぐこと!国民を守ること!」
窓の外を見つめながら続ける。
「もしランス国が防衛法案を撤回するなら、私たちも再軍備を止めるだけ」
ラインは少し驚いた表情を見せる。
「止める……のですか?」
「もちろん。共和国は軍拡競争をしたい訳じゃないもの」
ベレは静かに微笑んだ。
「私たちは写鏡なの」
「相手が剣を収めれば、私たちも収める」
「相手が剣を抜けば、国民を守るために備える」
「ただ、それだけ」
ラインは深く頷いた。
「なるほど……相手に合わせて対応するということですね」
「ええ、共和国から戦争を始めることはありません。でも、国民を守る責任から逃げることもしません」
その言葉は、共和国の新たな安全保障の考え方として、やがて世界中へ広まっていくのだった。
その頃――ランス国首相官邸。
首相は新聞を机へ叩き付けた。
「共和国は条約違反だ!一部条約の破棄だと!そんなもの認められるか!」
会議室には重苦しい空気が流れる。
しかし、外務大臣は冷静に資料を開いた。
「首相!落ち着いてください」
「現在、各国の反応をまとめました」
首相は苛立ちながら資料を受け取る。
「何だ?」
外務大臣は静かに説明を始めた。
「ですが……先に軍備を拡張したのは我が国です」
「防衛法案を提出し、徴兵期間の延長を打ち出したことで、共和国は『自衛のため』という大義名分を得ました」
首相の表情が曇る。
「まさか……」
外務大臣はさらに続ける。
「国際世論は共和国寄りです」
「メリカ国も、ギリス国も、本国も、『原因を作ったのはランス国ではないか』という見方を示しております。共和国を一方的に非難する国は、ほとんどありません」
会議室は静まり返った。
首相はゆっくりと椅子へ座り込み、小さく呟く。
「……そんな馬鹿な」
外務大臣は静かに首を横へ振る。
「共和国は戦争を始めるとは一言も言っておりません」
「自衛のための再軍備、と発表しております」
「我が国が先に動いた以上、国際社会は共和国の主張に一定の理解を示しています」
首相は言葉を失った。
自分たちが優位に立てると思っていた一手が、結果として共和国に大義名分を与え、世界の世論まで動かしてしまったのだった。




