揺れる隣国
総統官邸。朝の執務室。
ベレが書類を整理していると、ラインが慌ただしく部屋へ入ってきた。
「総統!外務省から緊急報告です!」
ベレは顔を上げた。
「何かあったの?」
ラインは電報を差し出す。
「ランス国議会で、防衛法案を可決する動きがあるようです」
「防衛法案?」
「はい」
「徴兵期間を延長する法案とのことです」
ベレは思わず眉をひそめた。
「え?何でよ?また攻め込む気?」
ラインは慎重に答える。
「現時点では目的は不明です。外務省でも情報収集中ですが、まだ断定できません」
ベレは腕を組んだ。
「ルー地方の件が終わって、まだそれほど時間も経っていないのに……軍備を強化する理由が分からないわね」
ラインも頷く。
「国内向けの政策かもしれません。あるいは周辺国を意識したものかもしれません。ですが、今の段階では推測しかできません」
ベレは静かに考え込む。
「……焦って動くのは駄目ね。まずは情報を集めましょう」
ラインは敬礼する。
「既に情報部にも追加調査を指示しております」
「ありがとうございます」
ベレは時計へ目を向けた。
「この後の定例会議で、この話が出そうね」
「はい。国防大臣、外務大臣、情報部も出席予定です」
ベレは静かに頷いた。
「分かりました。憶測では判断しません。事実を確認した上で、共和国としてどう対応するか考えましょう」
ラインも力強く答えた。
「承知しました」
窓の外では、いつもと変わらない共和国の朝が始まっていた。しかし隣国では、新たな動きが静かに始まろうとしていた。
定例会議。
予想どおり、最初に議題となったのはランス国の防衛法案だった。
外務大臣が報告する。
「最新情報です。ランス国議会では、防衛法案の可決がほぼ確実との見方が強まっております」
国防大臣も資料を見ながら続ける。
「徴兵期間の延長に加え、軍備拡充についても議論が進んでいるようです」
会議室は重い空気に包まれた。
ベレは静かに口を開く。
「現時点では、まだ可決されていません。共和国は冷静に対応します」
「ただし、可決された場合は、直ちに対策を講じます」
会議終了後。
総統官邸では緊急記者会見が開かれた。
国内外の記者が詰め掛ける。
一人の記者が手を挙げた。
「総統。ランス国の防衛法案は、可決がほぼ確実との情報があります。共和国は、どのように対応されますか?」
会場が静まり返る。
ベレは演台の前で静かに頷いた。
「共和国は平和を望んでおります。ですが、国民の命と国土を守る責任があります」
一呼吸置いて、はっきりと言った。
「もしランス国が防衛法案を可決し、軍備を拡張するのであれば――共和国も、一部条約の破棄を通告し、自衛のための再軍備を開始いたします」
一瞬、会場が静まり返る。
そして次の瞬間。
「おお……!」
記者席からどよめきが広がった。
フラッシュが一斉に光る。
ベレは最後に静かに締めくくる。
「共和国は戦争を望みません。しかし、平和は願うだけでは守れません。国民を守るために必要な備えは、責任を持って進めます」
会場には緊張した空気が漂い、その発言は瞬く間に世界各国へ打電されていった。




