未来への投資
総統官邸。
定例会議が終わり、大臣たちが退出した後。
ベレは机の上に積まれた報告書を一枚ずつ読み返していた。
自動車開発。航空計画。送電網。電話網。
どれも少しずつ成果が見え始めている。
しかし、一冊だけ進捗が思わしくない報告書があった。
『人造石油研究計画』
ベレは苦笑する。
「うーむ……やっぱり、まだまだ時間が掛かりそうね」
その時、ラインが部屋へ入ってきた。
「総統。研究所から今月の報告です」
ベレは目を通す。
「資金は予定どおり投入、研究員も増員、設備も追加、でも成果は限定的……か」
ラインは静かに頷いた。
「思った以上に難しい研究のようです」
ベレは椅子にもたれ、天井を見上げる。
「まあ、そうよね。資金も、人材も、資材も、できる限り投入しているけれど」
「直ぐにポンポンと成功する訳ないものね」
ラインは安心したように笑う。
「中止はされませんか?」
ベレは首を横に振った。
「しません。研究って、そういうものじゃないでしょう?昨日まで失敗していても、今日、成功するかもしれない。だから続けるんです」
その頃。
共和国中央科学技術研究所。
リード・ベルは実験室で試験結果を見つめていた。
「また失敗か……」
若い研究員が肩を落とす。
「申し訳ありません。期待に応えられませんでした」
リードは静かに笑った。
「いや。一つ失敗が分かったということは、一つ成功へ近付いたということだ。総統も、そう言っていただろう」
若い研究員はゆっくりと顔を上げた。
「はい!」
リードは新しい設計図を机へ広げる。
「もう一度やろう。今度は触媒の配合を変える。必ず道は開ける」
その頃、総統官邸。
窓の外を眺めながら、ベレは静かに呟いた。
「未来は、お金だけでは買えない。でも未来へ挑戦する機会は、お金で作ることができる。だから私は、研究へ投資し続けます」
共和国は今日もまた、すぐには結果の出ない未来へ、一歩ずつ投資を続けていた。




