命を運ぶ翼、家族を運ぶ車
総統官邸。
ベレは航空計画の資料を見つめながら考え込んでいた。
「飛行機が完成したとして……次は何に使うかよね」
ラインが答える。
「旅客輸送でしょうか?」
ベレは頷いた。
「もちろん、それも大切。でも、それだけじゃないわ」
地図を机に広げる。
「前に話した航空郵便。今まで数日掛かっていた郵便も、飛行機なら数時間で届けられるかもしれない」
通信大臣が感心したように頷く。
「重要な書類や緊急の連絡も、今までより早く届けられますね」
ベレは少し考え込み、静かに続けた。
「でも……飛行機が運べるのは手紙だけじゃないわ」
会議室が静まり返る。
「薬、医療器具、医師、そして将来は、輸血用の血液なんかも運べるかもしれない」
医療大臣が驚いた表情を見せる。
「飛行機で……命を運ぶのですか」
ベレは力強く頷いた。
「ええ、飛行機は、人を傷付けるためだけのものじゃありません。人の命を救うためにも使えるはずです」
ラインも笑顔になる。
「まずは航空郵便の実現に向けて調査を始めましょう。その先に航空医療という新しい仕組みも目指します」
ベレは満足そうに頷いた。
「未来への投資ね」
その時だった。
コンコン。
「失礼します!」
フェル・ポルシュが嬉しそうな表情で執務室へ入ってきた。
「総統!完成しました!」
ベレは思わず立ち上がる。
「本当ですか!」
「はい!」
「試作第一号です!」
数時間後。共和国自動車工場。
工場の中央には、一台の試作車が置かれていた。
丸みを帯びた愛らしい車体。
ベレは車を見るなり笑顔になる。
「おー!まんまるで可愛い!なんだかカブトムシみたい!」
工場中に笑いが広がる。
フェルも照れくさそうに笑った。
「空気抵抗も考え、この形になりました」
ベレは運転席へ乗り込む。
「思ったより広いですね」
「家族四人なら十分乗れます」
フェルは説明を続ける。
「構造はできるだけ単純にしました。壊れにくく、壊れても修理しやすい設計です」
ラインも感心したように車を見つめる。
「総統がお話しされていた理想の車ですね」
ベレは試乗を終え、ゆっくりと車から降りた。
そして優しくボンネットを撫でる。
「家族で乗れる車ね。お父さんも、お母さんも、子どもたちも乗って出掛けられる」
「そんな時代が始まるのね」
フェルは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。ようやく形にできました」
ベレは笑顔で握手を交わした。
「おめでとうございます。共和国初の国民車です」
工場中から大きな拍手が湧き上がる。
空では、人の命を救う飛行機という新しい夢が生まれ。
地上では、家族を乗せる一台の車が走り始めようとしていた。
共和国の未来は、人々の暮らしを豊かにする技術とともに、静かに前へ進み続けていた。




