新たな可能性
総統官邸。
執務室で資料を眺めながら、ベレは一人考え込んでいた。
「うーん……」
軍の待遇改善。兵舎の修繕。軍服の更新。
通信機材の整備。輸送用トラックの増産。
兵站体制の見直し。
条約の範囲でできる改革は、着実に進み始めていた。
「でも……」
ベレは地図へ目を向ける。
「戦車も飛行機も、自由に開発できない」
「これだけは、どうにもならないわね」
飛行機については、既に民間航空会社向けとして旅客機の研究開発を進めている。
しかし戦車となれば話は別だった。
誰が見ても兵器。
条約違反になるのは明らかだった。
「さて……どうしようかしら」
その時だった。
コンコン。
「失礼します」
ラインが一通の極秘電報を持って入室する。
「総統、シア国から、内々の申し入れが届いております」
ベレは電報を受け取り目を通した。
「シア国……」
記憶を辿る。
「確か内戦が終わったばかりだったわね」
ラインは頷く。
「はい。国内は徐々に落ち着きを取り戻しております。しかし、まだ諸外国から正式な国家として十分に相手にされておりません。そのため共和国から技術支援をお願いしたいとのことです」
ベレはしばらく考え込んだ。
「技術支援か……」
ふと、一つの考えが浮かぶ。
「ねえ、ラインさん」
「もしシア国政府が了承してくれるなら……シア国内の土地を借りられないかしら?」
ラインが驚いた。
「土地……ですか?」
「ええ」
「共和国では条約の関係で研究できないものがある。でも、シア国の協力を得られれば、共同研究という形は取れないかしら」
ラインもすぐに意図を理解した。
「なるほど……シア国内に研究施設を建設し、共和国の技術者が共同開発を行うということですね」
ベレは静かに頷く。
「もちろん、相手にも利益がある形でね。技術を一方的に持ち出すつもりはない。工場も雇用も作る。シア国にも豊かになってもらう」
ラインは少し笑った。
「総統らしい考え方ですね。軍事だけでは終わらせない」
ベレも笑顔になる。
「一緒に発展した方が、お互い幸せでしょう?」
ラインは手帳を開いた。
「では、極秘外交として打診してみます」
「相手が了承すれば、正式な協議へ進めます」
ベレは窓の外を見つめた。
「条約は守る。でも、未来まで諦めるつもりはありません」
共和国は、新たな可能性へ向けて静かに動き始めようとしていた。




