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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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不穏な首都

皇帝の演説から一週間ほどが過ぎた。


新聞は相変わらず勝利を語っている。

敵軍の損害。英雄の活躍。国民の団結。


毎日のように似た記事が並ぶ。


だが私はもう見出しだけでは判断しなくなっていた。


本当に重要なのは小さな記事だ。

片隅に追いやられた数行。

そこにこそ現実が隠れている。


その日も朝から新聞を広げる。

そして三面の隅で手が止まった。


『首都にて労働争議発生』


記事は短い。驚くほど短い。

工場労働者の一部が賃金改善を要求。

操業停止は半日、既に解決済み。

たったそれだけ。


私はしばらく記事を見つめた。

そして昨日の新聞を引っ張り出す。

さらに一昨日。その前。


『運送組合が抗議集会』


『炭鉱労働者との交渉開始』


『物価上昇への不満』



「増えているわね」


私は小さく呟いた。一つ一つは小さい。

数が増えている。


外交官時代にも何度も見た。

国家が不安定になる時、最初に現れるのは大規模革命ではない。小さな不満だ。


賃金。食料。物価。労働条件。


それらが積み重なり。

やがて大きな流れになる。


私は首都の地図を広げた。

新聞に出てくる地名へ印を付けていく。


工業地帯。駅周辺。港湾地区。そして住宅街。


気付けば点が増えていた。

一箇所ではない。複数だ。


「偶然とは思えないわね」


私は椅子へ深く座った。

問題は労働争議そのものではない。

どこの国にもある。問題は頻度だった。


昼過ぎ。


侍女が新しいお茶を持ってくる。

私は何気なく尋ねた。


「首都へ行ったことはある?」


侍女は頷く。


「何度かございます」


「最近の様子は?」


すると侍女は少し困った顔をした。


「最近は分かりません」


そして少し考えてから続ける。


「ですが商人達はあまり良い話をしておりませんでした」


私は反応する。


「どんな話?」


「物価が高いとか、配給が減ったとか、仕事が減ったとか」


ありきたりな内容だったが、今の帝国では無視できない。


夕方。

私は再び新聞を読み返していた。

すると別の記事が目に入る。


『首都治安部隊増強』


理由は書かれていない。


テロ対策。重要施設警備。そう説明されている。だがなぜ今なのだろう。


私はペンを走らせる。


労働争議。抗議集会。物価上昇。治安部隊増強。


一つずつなら問題ないが並べると違う。


「不穏ね」


誰に聞かせる訳でもない。

独り言だった。


窓の外を見ると庭では妹が犬と遊んでいる。

平和そのものだ。だが首都は違う。

新聞から伝わる空気が変わり始めている。

以前なら戦況の記事が主役だった。


今は違う。


国内問題が少しずつ増えている。

それも隠しきれなくなったから載せているように見えた。


私はふと前世を思い出した。

ある国で見た革命前夜。

最初は誰も本気にしていなかった。


小さなデモ。小さな抗議。小さなストライキ。


皆が言った。


「大したことはない」


とそして一年後、政権は消えていた。

私は静かに新聞を閉じる。

もちろん帝国がそこまで危険とは限らない。

決めつけるのは早い。


一つだけ確かなことがある。

首都の空気は変わり始めている。

それは戦線とは別の場所で生まれている危機だった。


そして国家というものは案外。


前線よりも首都から崩れることが多いのである。

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