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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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27/61

皇帝の演説

その日の新聞は、珍しく屋敷中で話題になっていた。


朝食の席。

使用人達もどこか浮き足立っている。

侍女が新聞を運んでくる。

私は何気なく受け取った。

そして一面を見た瞬間、目を細めた。


『皇帝陛下、国民へ向け演説』


『帝国の未来を語る』


『勝利は目前』


私は記事を読み始める。

どうやら昨夜、皇帝が全国向けの演説を行ったらしい。


首都からの中継。


国民へ直接語りかける形式だったようだ。

帝国の未来。国民の団結。兵士達への感謝。


そして勝利への確信。


そんな内容が紙面いっぱいに掲載されていた。


「珍しいわね」


私は小さく呟く。

国家元首の演説自体は珍しくない。

この時期に行う意味が気になった。

私は記事を読み進める。


『帝国は未だ健在である』


『国民は一致団結しなければならない』


『困難は必ず乗り越えられる』


『兵士達の勇気を信じよ』


そこで私は読むのを止めた。

そして最初からもう一度読む。

さらにもう一度。


「数字がない」


思わず声に出た。


戦果。生産量。補給状況。輸送実績。


何もない。あるのは精神論ばかりだった。

もちろん。演説なのだから当然とも言える。

国民を励ます場だ。

細かな統計報告をする場ではない。


だがそれでも気になった。


前世で見てきた国家元首の演説を思い出す。

危機が小さい時。

指導者は具体的な成果を語る。

危機が大きくなると希望を語る。

さらに悪化すると忍耐を語る。

私は新聞を机へ置いた。

そして演説の要旨を紙へ書き出していく。


勝利。団結。忍耐。覚悟。犠牲。栄光。


何度も同じ単語が出てくる。


「うーん……」


私は腕を組んだ。

違和感の正体が見えてきた。演説は未来を語っている。だが現在を語っていない。

これが問題だった。


戦況はどうなっているのか。

物資不足は改善しているのか。

軍港の騒擾はどうなったのか。


配給は。鉄道は。生産は。


その辺りが何もない。


私は窓の外を見る。空は晴れている。

穏やかな日だ。帝国は穏やかではない。

それは市場を見れば分かる。

配給所を見れば分かる。

死亡通知を見れば分かる。


その時だった。

書庫の扉が開く。


妹だった。


「お姉様!」


元気よく駆け込んでくる。

そして机の新聞を見る。


「陛下のお話ですね!」


「読んだの?」


「はい!」


嬉しそうだった。

子供らしい反応である。

私は微笑む。


「どうだった?」


妹は胸を張る。


「きっと勝てると思いました!」


私は少しだけ目を閉じた。

それが演説の役割だ。


希望を与えること。

不安を抑えること。

団結させること。


妹の反応を見れば成功している。

少なくとも一部には。


「そう」


私は静かに答える。

妹は満足そうに頷いた。

そして本棚へ興味を移し、別の場所へ走っていく。

私は再び新聞へ目を落とした。

皇帝は嘘を言ったのだろうか。

たぶん違う。

少なくとも本人はそう信じているのかもしれない。

あるいは信じたいのかもしれない。

問題はそこではない。


私はペンを手に取る。

そしてノートへ書き加えた。


『演説内容:団結・忍耐・覚悟』


少し考えさらに一行。


『具体的成果の説明なし』


ペンを置く。

前世の経験が警鐘を鳴らしていた。

国家は危機に陥ると現実より希望を語るようになる。


そして希望を語る言葉が増えるほど。

現実は厳しくなっていることが多い。


私は窓の外を見た。遠くで鐘の音が聞こえる。


平和な午後だった。

新聞。市場配給。死亡通知。

そして今回の演説。


それら全てを繋げると、一つの絵が浮かび上がってくる。


まだ確証はない。


だが帝国は今、勝利へ向かっているようには見えなかった。


むしろ――

何かを必死に支え続けているように見えた。

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