病気で貧乏にならない国
総統官邸。
社会保障についての会議が開かれていた。
大臣が一枚の資料を差し出す。
「総統。近頃、こんな相談が増えています」
ベレは資料に目を通した。
「病気で働けなくなり、治療費が払えない……」
「怪我をして仕事を辞めざるを得なかった……」
「治療費を工面するため、家財を売った……」
ベレは静かに資料を閉じた。
「病気になっただけで生活が壊れる。そんな国にはしたくありません」
会議室は静まり返る。
ベレは立ち上がり、黒板へ大きく書いた。
『共和国医療保険制度』
「病気で貧乏にならない国を作ります」
大臣が驚いた表情を見せる。
「医療保険ですか?」
「はい。毎月、お給料から少しずつ保険料を納めてもらいます。そして、そのお金をみんなで支え合う仕組みにします」
財務大臣が尋ねる。
「つまり、病気や怪我をした時に、その積立金を使うのですね」
ベレは頷いた。
「そうです。病気や怪我をしている時は、働くこともできません」
「そんな時に何十倍もの治療費を払えと言われたら、生活は立ち行かなくなります」
「だから必要な時は、この制度を使います」
医療大臣も理解したように頷く。
「利用者の自己負担は少額に抑える、と」
「はい」
「残りは医療保険から支払います。安心して病院へ行ける国を作りましょう」
ラインが少し心配そうに尋ねた。
「ですが、保険料を払うことに反対する人もいるのでは?」
ベレは穏やかに答えた。
「元気な時は、自分のために払っているようには思えないでしょう。でも、誰だって病気になる可能性があります。今日、誰かを支えるお金は、いつか自分を支えるお金になります」
数日後。
共和国政府は新しい医療保険制度を発表した。
各企業では制度の説明会が開かれ、病院でも受付方法の準備が始まる。
ある工場では、一人の若い職人が説明を聞いていた。
「これなら、もし怪我をしても治療を諦めなくて済むんだな」
隣の年配の職人も安心したように笑う。
「家族も助かる」
「病気で家計が苦しくなる心配が減るな」
その報告を受けたベレは窓の外を見つめながら、小さく微笑んだ。
「国を豊かにすることも大切です。でも、それ以上に大切なのは、困った時に、安心して暮らせる国を作ることです」
ラインも静かに頷く。
「共和国はまた一つ、国民を守る制度を手に入れましたね」
ベレは力強く答えた。
「ええ。制度は、人を縛るためではありません。人を守るためにあるのです」
こうして共和国では、新たな医療保険制度が動き始めた。
誰もが安心して治療を受けられる国へ向けて、新しい一歩が踏み出された。




