郵便口座
総統官邸。経済政策会議が開かれていた。
ベレは一冊の家計簿を机の上へ置く。
「皆さん!今の共和国では、お給料はどうやって渡していますか?」
財務大臣が答える。
「ほとんどが現金の手渡しです。工場でも役所でも同じです」
ベレは静かに頷いた。
「やっぱり。でも、それって危ないですよね」
会議室が静まり返る。
「大金を持ち歩けば盗難に遭うかもしれません。落としてしまえば、それで終わりです。遠くへ送るにも時間が掛かります」
ラインも頷いた。
「確かに、給料日に強盗が出ることもあります」
ベレは黒板へ大きく書いた。
『郵便口座制度』
「郵便局で、誰でも口座を持てるようにします」
経済大臣が驚く。
「銀行ではなく、郵便局ですか?」
「はい。郵便局なら全国へ広げやすいですし、地方の人でも利用できます」
ベレは説明を続けた。
「給料は現金ではなく、口座へ振り込みます。必要な時に、必要な分だけ引き出せばいい。残ったお金は、そのまま預けておけます」
財務大臣が資料を見ながら頷く。
「預金制度も普及しますね」
「ええ」
「お金を家で隠しておく必要もありません」
「安心して貯金できます」
ラインが笑顔で尋ねる。
「国民は受け入れてくれるでしょうか?」
ベレは微笑む。
「最初は戸惑うでしょう。だから無理にはしません。希望する企業から始めます。便利だと分かれば、自然に広がります」
数日後。
共和国郵便局。
新しく「郵便口座受付」の看板が掲げられた。
職員たちは口座開設の説明を行い、手続きを手伝っている。
最初に口座を作ったのは、町工場で働く若い職人だった。
「これで毎月、大金を持って帰らなくて済むのか」
隣では一人の女性が笑顔を見せる。
「少しずつ貯金もできますね」
郵便局員も優しく頷く。
「必要な時は、いつでも引き出せます」
その様子を視察していたベレは満足そうに頷いた。
「お金は持ち歩くためだけのものじゃありません。安心して預け、必要な時に使えることが大切なんです」
ラインは笑いながら言った。
「また一つ、共和国の暮らしが便利になりますね」
ベレも穏やかに微笑んだ。
「便利になるだけじゃありません。安心して暮らせる国に、一歩近づくんです」
こうして共和国では、郵便口座制度が始まった。
人々の財産を守る、新しい仕組みが静かに根付き始めていた。




