条約の壁
軍施設の視察を終えた翌日。
ベレは総統執務室で、一人資料を読み返していた。
「うーん……この条約、縛られ過ぎじゃない?」
ラインが書類を置く。
「敗戦国ですから……」
ベレはため息をついた。
「確かに戦争に負けた。でも、これはやり過ぎよ。戦車は禁止、空軍は禁止、軍備も大幅制限。これじゃ国を守るどころか、災害が起きても対応できないじゃない」
ヘルムも腕を組む。
「実際、ルー地方へ向かった時も輸送には苦労したからな」
ベレは頷く。
「兵士は戦争だけが仕事じゃない。洪水や地震、山火事が起きれば、人を助けるのも仕事。でも今の共和国じゃ、人員も物資も陸送だけ。鉄道はだいぶ復旧してきたけど、トラックの数が少なすぎる」
しばらく考え込んだベレは、小さく呟いた。
「……民間の航空学校を作るか」
国防大臣が顔を上げる。
「航空学校ですか?」
「ええ。軍ではありません。民間の操縦士を育てる学校です。平時は郵便や物流、人の移動、災害救助で活躍してもらう。そして、もし国が危機に陥った時は、その経験が国を守る力にもなる」
ヘルムは感心したように笑う。
「なるほど。条約には引っ掛からねぇな。操縦経験者は戦争前にはいた。教官も何とか集まるだろう」
ベレも笑顔になる。
「そう。今できることを積み重ねればいいの」
その時だった。
ラインが慌てた様子で執務室へ飛び込んできた。
「総統!どうしたの? ラインさん。開発予定の農業機械についてです!ランス国とルギー国が抗議しています!」
ベレは首を傾げた。
「農業機械が?」
ラインは資料を読み上げる。
「『あれは戦車開発を目的とした偽装ではないか』との声明を発表しました」
ベレはしばらく黙っていた。
そして額に手を当てる。
「……はぁ。相変わらず懲りてないわね」
ラインは苦笑するしかなかった。
ベレは立ち上がる。
「記者会見を開きましょう。世界中の記者を集めてください」
「はい!そして、堂々と言います」
ベレは少し笑いながら続けた。
「農業機械は農業機械ですって、畑を耕す機械を戦車と言うなら、一度畑仕事をしてから言ってほしいわね」
執務室には思わず笑いが広がった。
しかし、その表情はすぐに真剣なものへ戻る。
共和国は、条約を守りながら国を強くする。
その道を、一歩ずつ歩み続けていた。




