国民の車
共和国中央科学技術研究所が設立されて数週間。
ある日、一つの工場から総統官邸へ報告が届いた。
「総統!自動車を国産で開発できそうです」
ベレは思わず顔を上げた。
「本当ですか?」
「はい。ただ……」
工場長は少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「現在の自動車は非常に高価です。性能も決して高いとは言えません。部品も多く、故障すると修理に時間も費用も掛かります」
ベレは腕を組みながら考えた。
「そうよね……だったら、目指す車は違うわ」
ラインが首を傾げる。
「と言いますと?」
「今より安い」
「性能はそこそこでいい。壊れにくい。そして、壊れても誰でも修理しやすい。家族みんなで乗れる車。そんな車が理想ね」
ラインは頷いた。
「確かに、それなら多くの国民が使えそうです」
ベレはラインを見る。
「ラインさん。車の設計に詳しい人、探せますか?」
「自動車ですか……?」
ラインは少し驚いた表情を見せたが、すぐに敬礼した。
「承知しました。探してまいります」
数日後。
ラインは一人の男性を総統官邸へ連れてきた。
「総統。お連れしました」
その男性は深く一礼する。
「初めまして。私は、フェル・ポルシュと申します」
ベレはその名前を聞いて、一瞬だけ動きを止めた。ポルシュ……?前世で、そんな名前の高級車があったような……まさか、関係あるのかしら……?
そんな考えが頭をよぎる。
フェルは机の上へ設計図を広げた。
「私は、自動車の設計をしております。ですが、私の夢は一つです。国民にも手が届く自動車を作りたいのです」
ベレは目を輝かせた。
「ほぅ……実に興味深いですね」
フェルは熱心に続ける。
「裕福な人だけではありません。普通の家族が買える価格で、安心して乗れる車を作りたいのです」
ベレは笑顔で頷いた。
「私は車のことは詳しくありません。だから専門的なことは、お任せします。ただ、一つだけお願いがあります」
フェルは姿勢を正した。
「家族で乗れて、壊れにくく、壊れても修理しやすい。そんな車を目指してください」
フェルは静かに目を閉じる。
そして力強く頷いた。
「……分かりました。まずは設計してみます」
ベレは立ち上がり、笑顔で右手を差し出した。
「お願いします」
フェルもその手をしっかり握り返す。
「共和国初の国民車を、必ず形にしてみせます」
ラインは二人の握手を見ながら、小さく微笑んだ。また一つ。共和国の未来を変える挑戦が始まろうとしていた。




