共和国中央科学技術研究所
総統官邸。
定例閣議が開かれていた。
各大臣から復興の進捗が報告される。
炭鉱の再開。鉄道の復旧。工場の操業。
一つひとつ順調に進んでいる。
報告が終わると、ベレは静かに立ち上がった。
「皆さん。人造石油の話を聞いて、気付いたことがあります」
会議室が静まり返る。
「共和国には、研究する場所がありません」
大臣たちは顔を見合わせた。
「研究者はいても設備がない、予算がない、そして、失敗を許されない。だから優秀な人材ほど、研究を諦めてしまうんです」
ベレは黒板へ大きく書いた。
『共和国中央科学技術研究所』
「ここを新設します」
どよめきが起こる。
「一つの建物ではありません。共和国中の頭脳を集める研究機関です」
ベレは黒板へ次々と書き加えていく。
* 化学研究部
* 物理研究部
* 機械技術研究部
* 電気技術研究部
* 農業研究部
* 医学研究部
「この六部門から始めます」
科学技術大臣が驚いた表情で尋ねる。
「総統……これほど大きな研究機関を、本当に作るのですか?」
「はい。共和国の未来は、研究で決まります」
数日後。
全国から研究者が集められた。
大学教授。工場の技術者。農業試験場の研究員。医師。薬学者。
若い学生まで集まってくる。
完成したばかりの講堂。
ベレは壇上へ立った。
「皆さん」
研究者たちは静かに耳を傾ける。
「今日から皆さんは、この国の未来を作る仕事をします。ですが、一つだけ約束します」
研究者たちは息をのんだ。
「失敗しても責任は問いません」
会場がざわつく。
「百回失敗しても構いません。百回失敗して、一回成功すれば、その一回が国を変えます」
一人の化学者が恐る恐る手を挙げた。
「総統。本当に失敗しても……よろしいのですか?」
「研究費を無駄にしたと責められませんか?」
ベレは優しく微笑んだ。
「研究とは、失敗を積み重ねる仕事です。失敗しない研究は、挑戦していない研究です」
会場は静まり返る。
続いて年配の物理学者が立ち上がった。
「そのような言葉を、政治家から聞いたのは初めてです」
ベレは頷いた。
「政治の役目は、成功を命令することではありません。挑戦できる環境を作ることです」
その言葉に、研究者たちは一斉に立ち上がった。
大きな拍手が講堂を包む。
ラインはその光景を見ながら、小さく呟いた。
「また共和国が変わりますね」
ベレは研究者たちの笑顔を見つめながら答えた。
「ええ。資源には限りがあります。でも、人の知恵には限界がありません」
この日、共和国は新たな武器を手に入れた。
それは銃でも、大砲でもない。
未来を切り拓く、人々の知恵だった。




