未来への投資
数日前。
「石炭から石油でも作れないかしら……」
ベレが何気なく口にした一言。
その話を聞いていた理系出身の議員が、党本部へ一人の男性を連れてきた。
「総統、お時間をいただきありがとうございます」
「こちらが、人造石油の研究をされているリード・ベルさんです」
ベレは立ち上がり、握手を交わした。
「初めまして」
「ぜひ、お話を聞かせてください」
応接室へ移動すると、リードは大きな図面や資料を机いっぱいに広げ始めた。
「石炭を高温、高圧で処理し……」
「その後、化学反応を利用して液体燃料へ……」
「触媒には――」
ベレは真剣に聞いていた。
しかし。
「…………」
難しい。
専門用語が次々と飛び出し、途中から何を説明されているのか分からなくなってしまった。
隣で聞いていたラインも、小さく首を傾げている。
説明が終わると、部屋は静かになった。
ベレは苦笑しながら頭を掻く。
「ごめんなさい」
「半分……いえ、一割くらいしか理解できませんでした」
ラインも思わず頷く。
「私もです」
リードは申し訳なさそうに頭を下げた。
「失礼いたしました」
しかしベレは首を横に振る。
「いいえ」
「私が理解できなくても、一つだけ分かったことがあります」
リードが顔を上げる。
「あなたは、この研究を本気で成功させたいんですね」
「……はい!」
「共和国が資源で困らない国になるなら、人生を懸けても構いません」
その言葉を聞いたベレは笑顔になった。
「それで十分です。専門家の仕事は、専門家がしてください。政治家の仕事は、その環境を作ることです」
ラインが驚いた表情を見せる。
「総統?」
ベレは迷うことなく決断した。
「リード・ベルさん」
「あなたを人造石油研究計画の責任者に任命します」
「研究を進めてください」
「さらに、この研究に賛同してくれる企業や技術者も集めてください」
リードは目を丸くした。
「私が……責任者ですか?」
「はい」
「失敗しても構いません」
「挑戦しなければ、成功もしませんから」
リードは立ち上がり、深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「必ず、共和国の未来を変えてみせます!」
ラインは苦笑しながら呟いた。
「総統は、本当に人を信じますね」
ベレは穏やかに微笑んだ。
「全部を理解できる人なんていません。だからこそ、信頼できる人に任せるんです」
こうして共和国では、人造石油の研究が本格的に始まった。
未来への新たな挑戦が、静かに幕を開けた。




