英雄ではなく制度
ルー地方奪還から数週間。
共和国の復興は順調に進んでいた。
各紙の新聞は一斉に大きな見出しを載せる。
『ベレ総統、平和を勝ち取る』
『共和国を救った英雄』
『史上最年少の英雄総統』
総統官邸。
ラインが新聞を机へ並べる。
「総統。今日はどの新聞も同じ内容ですね」
ベレは一枚手に取り、苦笑した。
「また英雄ですか。私は英雄じゃありません」
ラインは首を傾げる。
「ですが、国民はそう思っています」
ベレは新聞を閉じ、静かに言った。
「英雄が国を救うのではありません。制度が国を守るのです。私一人がいなくなっても、この国が回る仕組みを作らなければ意味がありません」
ラインは静かに頷いた。
「確かに、それが総統の目指してきた国でしたね」
ベレは机の上の資料へ目を向ける。
「さて……ルー地方が戻ったことで、石炭の自給率は百%を超えました」
「鉄鋼も二〇%ほど回復しましたね」
ラインが資料を確認する。
「はい。資源面では大きな前進です」
ベレは腕を組んだ。
「でも、まだ足りないのよね。農業なら増産できます。でも資源は簡単には増えない……」
しばらく考え込んだ後、ぽつりと呟く。
「石炭から石油でも作れないかしら……」
ラインは思わず苦笑した。
「総統……流石にそれは無茶ですよ」
その時だった。
廊下を通りかかった一人の議員が足を止めた。
「失礼します。今、石炭から石油と聞こえましたが」
ベレとラインが振り返る。
「ええ。そんなこと出来る訳ないと思って」
議員は眼鏡を押し上げた。
「いえ。理屈では可能ですよ」
「……はい?」
ベレは目を丸くする。
「本当に?」
議員は静かに頷く。
「石炭を化学的に処理して液体燃料を作る技術です。研究段階ではありますが、不可能ではありません」
ラインも驚きを隠せない。
「そんな技術があるんですか……」
議員は少し苦笑した。
「ただし、大きな問題があります。輸入した石油より、ずっと高価になります。現状では採算が合いません」
ベレは少し考え込む。
「つまり……平時では高くても、輸入が止まれば価値があるということですね」
議員は笑みを浮かべた。
「その通りです。安全保障という意味では、大きな価値があります」
ベレの表情が明るくなる。
「面白いですね。採算だけで技術を切り捨てるのは早いかもしれません。まずは研究から始めましょう」
議員は深く頭を下げた。
「ぜひ、お任せください」
ラインは苦笑しながら呟く。
「また始まりましたね。総統の『出来ない』を『出来る』に変える仕事が」
ベレは笑顔で答えた。
「だから研究者は大切なんです」
「未来は、いつだって『無理だ』と言われたところから始まるのですから」




