白旗
共和国軍が進軍を開始してから二日目。
ランス国首相官邸。
世界中の新聞社、ラジオ局を集めた緊急記者会見が開かれていた。
首相はゆっくりと演台へ立つ。
疲れ切った表情で、一枚の原稿を見つめる。
会場は静まり返っていた。
首相は深く頭を下げる。
「まず初めに、青十字支援隊への襲撃により、尊い命が失われたことについて、ランス国を代表し、深くお詫び申し上げます」
記者たちが一斉にペンを走らせる。
首相は続けた。
「また、共和国との対立をこれ以上続けることは、両国、そして世界の平和にとって望ましいものではありません」
「よって、ランス国政府はルー地方から全軍を撤退させます。ルー地方は共和国へ返還します」
世界中へ向けて、その声明がラジオで生中継されていた。
メリカ国。ギリス国。本国。共和国。
そして、ルー地方の前線でも。
共和国軍前線司令部。
兵士たちは緊張したままランス軍を見つめていた。その時、通信兵がラジオの音量を上げる。
「……ルー地方から全軍を撤退させます。共和国へ返還します」
兵士たちは顔を見合わせた。
「本当か……」
一方、ランス軍前線司令部。
司令官もラジオを静かに聞いていた。
首相の声明が終わると、ゆっくりと帽子を取る。
「……首相が決断されたか」
周囲の将校たちも黙って頷いた。
司令官は静かに命じる。
「白旗を掲げろ!全軍、武器を下ろせ」
命令は瞬く間に前線へ伝わる。
ランス軍陣地から、大きな白旗がゆっくりと掲げられた。
共和国軍にも緊張が走る。
「白旗!全軍、警戒!」
共和国軍前線司令官が双眼鏡を下ろした。
ランス軍司令官は数名の将校とともに前へ歩き出る。両軍の中間地点で立ち止まり、共和国軍前線司令官へ敬礼した。
「私はランス軍前線司令官です。ランス国政府の命令に従い、ルー地方駐留軍は降伏します。武装解除に応じます」
共和国軍前線司令官は静かに敬礼を返した。
「降伏を受理する。全将兵の安全は共和国軍が保証する」
ランス軍司令官は深く頭を下げた。
「感謝します」
その瞬間、共和国軍の兵士たちから安堵の息が漏れる。
誰一人、引き金を引くことなく。
誰一人、命を落とすことなく。
ルー地方を巡る戦いは、白旗によって幕を閉じた。




