進軍命令
最後通告から四十八時間。
時計の針が、静かに期限を告げた。
総統執務室。ラインが電報を手に入室する。
「総統。ランス国、ルギー国、両政府より回答はありません」
部屋は静まり返る。
ベレは静かに目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……そうですか」
ゆっくりと立ち上がる。
全員がベレを見つめる。
国防大臣。ヘルム。ライン。外務大臣。
誰一人として口を開かない。
ベレは静かに言った。
「国防大臣」
「はい」
「共和国軍総司令官として命令します。共和国軍へ伝達。予定通り前進してください」
国防大臣は力強く敬礼する。
「了解しました!」
ベレは続けた。
「もう一つ、裏命令があります。もし勝てそうになかったら、直ちに撤退してください。兵士の命を最優先とします」
国防大臣は思わず聞き返す。
「……本当によろしいのですか?普通なら最後まで戦えと命じるところですが」
「いいんです。兵士は国の宝です。生きて帰ってくることも任務です」
ヘルムは思わず吹き出した。
「ぷはっ!何だその命令は!初めて聞いたぞ!」
ラインも苦笑する。
「総統らしいですね」
ヘルムは笑いながら帽子をかぶり直した。
「了解!その命令、俺が責任を持って伝える」
ベレは二人を見つめる。
「国防大臣、ヘルムさん。現地で皆さんをお願いします」
国防大臣は力強く頷く。
「必ず任務を果たします」
ヘルムも敬礼した。
「任せとけ」
二人はそのまま執務室を後にした。
総統官邸を出ると、公用車へ乗り込み軍用飛行場へ向かう。
飛行場では二機の軍用機が既に暖機運転を終えていた。
整備兵が敬礼する。
「離陸準備、完了しております!」
国防大臣はヘルムを見る。
「行くぞ」
「ああ」
二人は機内へ乗り込んだ。
プロペラが勢いよく回転する。
轟音とともに軍用機は滑走路を駆け抜け、大空へ舞い上がった。
向かう先は共和国軍前線司令部。
その頃。
前線集結地では、国防大臣からの命令を受けた将校が全将兵の前へ立つ。
「総統命令!共和国軍、前進!」
ラッパが鳴り響く。
三千人の共和国軍が一斉に歩き始めた。
軍用トラックはわずか。荷馬車も少ない。
兵士たちは自らの足でルー地方を目指す。
沿道には多くの国民が集まっていた。
老人は帽子を脱ぎ、子どもたちは共和国旗を振る。
工場の職人たちは静かに敬礼する。
「頼んだぞ!」
「必ず帰って来い!」
「ルー地方のみんなを助けてくれ!」
兵士たちは敬礼で応えながら歩き続けた。
総統官邸の窓から、その様子を見つめるベレは、小さく敬礼を返した。
「お願いです。誰一人、命を落とさないでください」
共和国軍三千人。
共和国の未来とルー地方の希望を背負い、静かに前進を開始した。




