沈黙の二十四時間
最後通告を発表してから二十四時間。
総統官邸は、これまでにない静けさに包まれていた。
執務室。
ベレは机の上に置かれた時計を見つめる。
まだ返答はない。
机の上には、ランス国とルギー国へ送った最後通告の写しが置かれている。
コンコンコン。
「総統」
ラインが入室した。
「何か連絡は?」
「……ありません」
「ランス国、ルギー国、共に返答はありません」
ベレは静かに頷いた。
「そう……引き続きお願いします」
その時、今度は国防大臣が入室した。
「総統。少しお時間を」
「どうぞ」
国防大臣は地図を机へ広げた。
「三千名の部隊ですが、予定通り集結を完了しております。補給も最低限ですが準備できました。四十八時間以内にルー地方へ進出可能です」
ベレは地図を見つめる。
「そうですか……」
国防大臣は少し言いづらそうに口を開いた。
「総統。もし……相手が引かなかったら、どうされますか?」
部屋の空気が張り詰める。
ベレはしばらく答えなかった。
窓の外を見つめ、小さく息を吐く。
「正直に言います。まだ迷っています」
国防大臣もヘルムも静かに聞いていた。
「私は最後まで外交で解決したい。一人も死なせたくありません。ですが。ルー地方では、今も共和国国民が苦しんでいます。時間が過ぎるほど、救える命も減っていきます」
ヘルムが腕を組んだまま口を開く。
「時間は、向こうの味方だからな」
ベレは静かに頷く。
「ええ。だから私は最後まで待ちます。ですが。四十八時間が過ぎても返答がなければ……」
言葉を区切る。
「私は、自分で出した最後通告に責任を持ちます」
国防大臣は真っ直ぐベレを見た。
「つまり……進軍命令を?」
「はい」
「その時は、私が命令します」
国防大臣は静かに敬礼した。
「承知しました。共和国軍は総統の命令を待ちます」
その頃。
情報部ではヘルムが各国から届く電報を確認していた。
「メリカ国は?」
「ランス国へ再度外交交渉を実施中です」
「ギリス国は?」
「共同調査団受け入れを求めています」
「本国は?」
「戦争回避を求める声明を発表しました」
ヘルムは小さく笑う。
「世界中が止めようとしてる。だが、肝心のランス国とルギー国は沈黙か」
一方、世界各国では新聞の号外が飛び交っていた。
『共和国最後通告から二十四時間』
『ランス国、依然回答なし』
『世界は固唾をのんで見守る』
共和国国内でも、人々はラジオの前から離れなかった。
「返事は来たのか?」
「まだらしい」
「頼む……戦争だけは」
「でも、このままルー地方を見捨てる訳にもいかない」
夜になっても、ベレは執務室を離れなかった。
机には冷めたコーヒーが何杯も並んでいる。
ラインが新しいコーヒーを置いた。
「総統。少しだけでも、お休みください」
ベレは首を横に振る。
「眠れません。返答を待っているのは、私だけではありませんから」
ラインは静かに頷いた。
「皆、総統と同じ気持ちです」
時計の針だけが静かに時を刻んでいく。
カチッ……
カチッ……
日付が変わった。
ヘルムが静かに執務室へ入る。
「総統。期限まで……あと二十四時間だ」
ベレはゆっくり立ち上がり、ルー地方の地図を見つめる。
「どうか……この二十四時間で終わってください。これ以上、誰も傷付いてほしくありません」
静まり返った総統官邸。
運命の期限まで、残り二十四時間となった。




