四十八時間の最後通告
数日後。総統官邸、情報部。
ヘルムは疲れた表情で部屋へ入ってきた。
「総統。どうにか、かき集めた」
ベレは立ち上がる。
「集まりましたか?」
「はい」
「俺も旧友を頼り、各地へ散っていた連中へ声を掛けた。現在、集結地域への移動は完了している」
ヘルムは苦笑する。
「だがな……文字通り烏合の衆って程じゃねぇが正規軍、予備役、元兵士、志願兵……寄せ集めだ。装備もバラバラ、訓練も十分じゃねぇ」
ベレは静かに頷く。
「そうですか……」
ヘルムは地図を広げた。
「ここが集結地点だ。ここから徒歩で約四十八時間。ルー地方へ入れる」
ベレは首を傾げた。
「徒歩?」
「ああ、荷馬車も足りねぇ。トラックなんざ、もっと足りねぇ、燃料も十分じゃない。一部は自転車を使わせる。結局、一番確実なのは歩くことだ」
ベレは静かに地図を見つめた。
「……なるほど」
少し考えた後、顔を上げる。
「分かりました。記者会見を開きます」
ラインが驚く。
「このタイミングでですか?」
「はい。最後の機会を与えます」
数時間後。総統官邸。
国内外の記者が集まり、臨時記者会見が始まった。
ベレは壇上へ立つ。
「本日は、お集まりいただきありがとうございます。まず最初に共和国政府は、今回の青十字支援隊襲撃事件により、多くの方々が犠牲となったことに深い悲しみを表します」
会場は静まり返る。
ベレは続けた。
「共和国政府は、ランス国およびルギー国に対する賠償金の支払いを、本日をもって停止します」
記者席がざわつく。
「さらに今回の事件について正式な謝罪を求めます。そしてルー地方住民への食料品、生活必需品、医薬品などの人道支援物資の受け入れを要求します」
記者席から声が飛ぶ。
「それが共和国政府の最終要求ですか?」
「はい。これが平和的解決への最後の提案です」
記者から次々と質問が飛ぶ。
「交渉期限は?」
「もし拒否されたら?」
「経済制裁ですか?」
ベレは一つ一つ丁寧に答えていく。
そして最後、ベレは原稿を閉じた。
会場は静まり返る。
「最後に、一つ申し上げます」
ラインもヘルムも顔を上げる。
この発言は、原稿にはない。
ベレは真っ直ぐ前を見据えた。
「もし、ランス国、ルギー国両政府から四十八時間以内に、何らかの回答がない場合」
会場の空気が凍りつく。
「共和国は、三千人の共和国軍をルー地方へ進軍させます」
記者席がどよめく。
「えっ!?」
「軍を!?」
ベレは一歩も引かなかった。
「そして、ルー地方を奪還します。奴隷的な扱いを受けている共和国国民を解放します」
会場は騒然となる。
「総統!それは宣戦布告ですか!?」
「本当に軍を動かすのですか!?」
「戦争になる可能性があります!」
フラッシュが一斉に光る。
ラインは驚きのあまりベレを見つめた。
「総統……」
ヘルムは腕を組み、小さく笑う。
「あーあ。言っちまったな。もう後戻りはできねぇぞ」
ベレは静かに答えた。
「ええ、だからこそ私は最後まで平和を望みます。ですが共和国国民を守る責任から逃げることはできません」
その日の号外は、世界中を駆け巡った。
『共和国、四十八時間の最後通告』
『回答なき場合、ルー地方へ三千人進軍』
『世界情勢、一触即発』
世界は固唾をのんで、その四十八時間の行方を見守ることとなった。




